第百三十四話 信行出陣その三
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「氏真殿もでしたか」
「はい、どうも」
「そもそもが影の家でおじゃる」
「影とは」
「宮廷において左道を防ぐ家柄でおじゃる」
その陰陽道を使ってだというのだ。
「表に出る様な家でもありませぬ」
「ううむ、そうでおじゃったか」
「左様でおじゃる、ああして御所におられることも珍しいでおじゃる」
「そうでおじゃるか」
「麿も久し振りにお見掛けしたでおじゃる」
この公卿にしてもそうだというのだ。
「いや、滅多にありませぬ」
「ふむ、それにしても」
氏真は高田の顔を見ながら言う。
「整った顔立ちの方でおじゃるが」
「それでもでおじゃるか」
「いや、何でもありませぬ」
ここから先はあえて言わなかった、言えば厄介なことになると察してだ。
「それでは」
「はい、では氏真殿の官位のことで」
詳しい話をすることになった、氏真は都にいてその中で信長の行方について必死に探しそのうえで慌てる様子を見た、そしてそれを見ているのは。
信行もである、彼は都に残っている織田家の者達から話を聞いていた。
「殿のご無事はまだわかりませぬ」
「軍勢はもう金ヶ崎から去ったそうですが」
「それでもです」
「殿は真っ先に陣を去られたそうですが」
だが、だったのだ。信長の所在は彼等もわからなかった。
それで彼等も慌てていた、だがだった。
信行は落ち着いていた、その顔でこう彼等に問うた。
「兄上と共にいる者達は誰じゃ」
「?殿のお供ですか」
「その方々ですか」
「そうじゃ、誰がおる」
問うのはこのことだった。
「一体」
「はい、与三殿と勝三郎殿に」
まずはこの二人が挙げられる、常に信長の本陣の軍を率いる二人だ。
「それに新助殿に小平太殿です」
「先程報が来ました」
「この方々が殿のお供とのことです」
「そうか、その者達ならばじゃ」
信行はここまで聞いて安心した顔になった、それで言うのだった。
「大丈夫じゃ」
「殿の御身はですか」
「安心してよいですか」
「あの者達は兄上への忠義も篤く武芸もよい」
だからだというのだ。
「何としても兄上を護ってくれるわ」
「確かに。あの方々なら」
「大丈夫ですな」
「うむ、安心してよい」
またこう言う信行だった。
「兄上は無事都まで着ける、ただ」
「ただ?」
「ただと申しますと」
「少し気になることがある」
袖の下で腕を組み考えている顔で述べる。
「それがじゃ」
「それでといいますと」
「一体何が」
「朽木殿じゃ」
ここで名を挙げるのはこの者だった。
「朽木元綱殿じゃ」
「南近江の国人の」
「あの方ですか」
「あの御仁がどうされるかじゃ」
それでだというのだ。
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