第百三十四話 信行出陣その二
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「さあ、戻って来られたらおもてなしをしようぞ」
「退かれてお気持ちが沈まれておられるだろうしな」
「さて、茶に菓子を用意しようぞ」
「お慰めしようぞ
彼等は信長が戻って来ることを望み今は待つのだった、それは朝廷も同じだった。
公卿達は御所においてそれぞれ怪訝な顔で話していた、戦乱が終わり栄えが戻って来ている都に帰って来た者達も多くいる。
その彼等がだ、こう口々に話すのだ。
「まさか右大臣殿が討たれたのでおじゃるか?」
「いえ、それは有り得ないでおじゃる」
「右大臣殿に限ってそれはないでおじゃるよ」
「必ずここに戻って来られるでおじゃる」
「さすれば麿達も日頃何かと贈りものをしてもらっておるし」
信長は朝廷への寄進も忘れてはいない、それで御所も彼等の暮らしも急によくなってきているのである。
それでだ、彼等も言うのだ。
「右大臣殿が戻って来られたらな」
「その時は麿達もおもてなしをしようぞ」
「そうじゃ、和歌もあれば茶もある」
「右大臣殿は大層お茶を好まれる方、それでは」
「うむ、盛大に茶会を開くでおじゃる」
「都にもお話をするでおじゃる」
民達だけでなく朝廷も殆どが信長が生きて帰ることを信じその時を待っていた、しかしその中においてであった。
一人の公卿だけは違っていた。女と見間違うまでに整った白い顔だが何処か陰惨で暗い顔である、その彼がである。
一人何かを考えていた、公卿達はその彼に気付きこう問うた。
「高田殿、どうされたでおじゃるか?」
「何かあったでおじゃるか?」
「いえ」
高田と言われたその公卿は見ればかなり若い、二十歳程であろうか。その若さが美貌と陰をより際立たせていた。
その彼は公卿達、自身と同じである彼等にこう言ったのである。
「何もありませぬ」
「そうでおじゃるか、いや右大臣殿が危ういでおじゃる」
「だからでおじゃる」
公卿達は慌てているのを隠せずに話していく。
「右大臣殿のご無事も願い」
「祈祷もせねば」
「左様ですか」
公卿達のその言葉を聞いてもだ、高田はというと。
彼は表情を変えない、そのうえで言うだけだった。
「では私は」
「高田殿も来られるでおじゃるな」
「そうされますな」
「一応は」
こうは返す、だが。
彼だけは表情を変えない、信長の行方を知りたく慌てふためく御所の中で彼だけが能面の様だ、その時である。
御所に氏真が来ていた、今川家が駿河等の守護でなくなってから彼は家康の庇護を受けているが半ば都に住んでいる感じになっている。
その彼が親しくしている公卿に呼ばれ御所に来ていたのだ、用件は彼の官位のことである。
それで来ていたがそこで、だった。
その高田を見る、そして首を捻ってその親しい公卿に言った。
「あ
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