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真鉄のその艦、日の本に
第一話  接敵
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長岡の一生は、一般的に見て、順風満帆なものだったと言えよう。
防大をそれなりに優秀な成績で卒業し、海軍幹部候補生学校でも同じくらいの立ち位置で卒業。主に砲雷科を受け持ち、34歳の若さにして中佐にまで上りつめた。
珍しい、硬派な、悪く言えばジジ臭い若者だった長岡は、爺そのものである軍上層部にも気に入られたのだろう、自分自身がジジイになっていこうとするまでに中佐にまでなれたのはその人格によるところが大きかったように見受けられる。
ただひとつを除いて順調だった。

中佐に昇進したのと同じ年、妻に先立たれてしまったこと以外は。





――――――――――――――――――――――


「前大戦において、我が大日本帝国はアメリカ合衆国をはじめとした連合国陣営と戦いました。」
「明らかに物量で劣る戦いでしたが、効果的打撃を与える事に成功し、当初の目論見通りの早期講和に持ち込むことができました。」
「結果的にこれは正解だったといえます。」
「ある意味、引き分けで終わっておいた事で、前大戦終結後の合衆国の急速な国土拡大と支配の波に呑まれることなく、国を保つことができたと…」

そこで、小さなプレハブ小屋の教室にざわめきが起こった。

「でもせんせい、うちのじいちゃんは『まだ日本は戦えた。なのに弱腰の政府が戦争を終わらしちまったおかげで、結局負けたようなもんだ』っていつもいってるよー。」

発言したのは丸坊主の、いかにもやんちゃそうな子どもだった。手には絆創膏が目立つ。大工の手伝いをしているらしい。だからなかなか昼間の学校にも行けないのだとか。
最初の授業で言っていた。

教壇に立つ女性‐風呂元中尉は、にっこり笑ってその無邪気な反論に答える。

「確かに、あの大戦で日本は国力を相当疲弊させ、また終戦の条件として大陸からの撤退を余儀なくされて、経済規模が縮小し長い不況に陥ることになりました。アメリカが大戦後、どんどん勢力を伸ばしている現状で、国際社会でも中々良い立場を得られずにいるのも確かです。負けたようなもの、という意見も分かります」
「しかし、徹底抗戦したとして、資源は枯渇し、戦線は疲弊。アメリカ本土を攻め落とすということは、実際問題不可能でした。引き分けでぎりぎりの戦いだったのです。最初から、勝てる戦いではなかったのです。」

子どもはやるせない顔になって、「じゃあどうすりゃいいんだよー」とむくれる。

「大事な事は、当時の日本はその時考えられる最善の選択をしたということ」

風呂元は、教壇から身を乗り出してその子どもの顔を覗き込む。

「日本という国を保っておけば、またいつか好機は訪れます。その時の為に、私も、あなた達も、今考えられる最善を尽くして生きていかないとね」

細面でぱっちりし
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