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生きるために
プロローグ
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なかったが───ただ、その背中に憧憬の視線で何度か見たのは否めない。

その背中を、最早、永劫見れない。
その事実を───軽くだが、噛み締めた。

もう、お別れだ。
彼の死を、この目で見るのは正直辛い。
別に自分に何か優しくしてくれたとか、特別な事を教えてくれた人ではなかったが、それでも自分が生き残ることが出来たのは師匠のお蔭であるという事は理解している。
別れの言葉は言わない。それは自分と彼の関係ではない。
あくまでも、ドライに。そんな乾いた関係が自分達には相応しい。
師匠も解っているだろう。
だから、彼は特別何も言わずに───その手にあるものを差し出した。
十字架のような大型機関銃。
彼のデバイスで、殺し道具。
インテリジェントデバイスらしいが、会話など全然、聞いたことがない。師匠が道具に対しては道具だと割り切っていたからだろう。
本当に師匠らしくない。その人間らしい餞別に、不覚にも礼を言いたくなる。
互いに心温まるような会話などはしなかったが───その在り方は師匠と弟子と言っても良かったのだろうか。
だから、俺も何も言わずにそれを受け取った。
重い。
今まで使っていたライフルやハンドガンやナイフとかと違って、これは最早レベルが違う重さである。
しかし、その重さを良しとし、自分はそれを背中に背負った。
その背負った自分を一目見て、彼は眠るように目を閉じようとした。
だから、自分も彼に対してらしくない事を言う。

「───今までありがとうございました」

その驚きの表情を記憶野に焼き付け、そのまま背中を向けた。
何も残らない荒野を歩く。
手元には何も残らず、帰る場所も失せてしまったが……これもまた有りだろうと自分はそう思ったのだ。
その自覚をした瞬間に、夢の終わりが近づく。
非常に最低最悪なご都合主義に夢の中の自分が苦笑し、現実に見えない手で引き戻される。
だからこそ、見えなくなった師匠に現実の自分が今更ながら祈った。

願わくば───彼の求道が完結しているように、と。

故にここからは自分の時間だ。
だから、いい加減、起きろと自分に更なる命令を促して起床する。





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