第三十六話 浴衣を着てその一
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第三十六話 浴衣を着て
合宿から帰ってすぐにだった、琴乃は家で母に尋ねた。
「ねえお母さん、浴衣だけれど」
「浴衣?あるわよ」
返事はすぐだった。
「夏祭りに着ていくのよね」
「あっ、わかったの」
「浴衣っていえばそれしかないでしょ」
母は微笑んで娘に言った。
「そうでしょ」
「ううん、そういえばそうよね」
「今普段は着ないからね」
あくまで夏祭りの為の服だというのだ、浴衣は。
「他には着ないからよ」
「わかったのね」
「そう、それで浴衣だけれど」
「あるのね」
「色は黄色のあれでいいわよね」
「あの浴衣まだあったの」
「まだって去年も着てたでしょ」
中学三年のその時にもだというのだ。
「そうでしょ」
「そういえばそうだったかしら」
「去年の八条神社でのお祭りの時も着てたでしょ」
「あの浴衣だったのね」
「もう一着あるわよ」
家にある浴衣は一着だけではなかった。
「白いのがね」
「あれもまだあるのね」
「そうよ、あるわよ」
「確か中一の時に着てたわね、あの白いのは」
「そっちにする?じゃあ」
「ううん、どうしようかしら」
母の言葉を受けてだ、琴乃は真剣に考えだした。
暫く考えた、そのうえでこう答えた。
「それじゃあね」
「それじゃあ?」
「白にしようかしら」
琴乃が今回選んだ浴衣の色はそれだった。
「白で黄色い菊の模様のよね」
「そう、その浴衣よ」
「それも黄色があるし」
それでだというのだ。
「じゃあね」
「それにするのね」
「菊も好きだから」
琴乃は菊が好きだ、今は菊の季節ではないがそれでもだというのだ。
そう話してだ、そして母にあらためて言った。
「じゃあそれにしてね」
「ええ、じゃあすぐに浴衣出すわね」
「自分で出すから。何処にあるの?」
「あんたの部屋の押し入れの中にあるわよ」
「あそこなの」
「そうよ、じゃあ自分で出して着るのね」
「一回着てみるわ」
試しにそうしてみるというのだ。
「そうするから」
「それじゃあね」
「とりあえず今から着てみるから」
今合宿から帰って来たばかりだ、それでも今すぐにだというのだ。
「ちょっと見てくれる?どんな具合か」
「帰ってすぐなのに?」
「思ったらすぐにじゃない」
琴乃の行動方針だ、彼女は思い立ったらという娘なのだ。
それでだ、すぐにだった。
琴乃は自分の部屋に入り押入れの中からその白い浴衣を出した、そのうえで自分で着て帯も何とか締めてだった。
母の前に出た、するとすぐにこう言われた。
「駄目ね」
「似合わないの?」
「違うわよ、帯よ」
自分で締めたその帯がだというのだ。
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