第四章
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王となった劉備にだ、関羽と張飛は万感の思いを込めて言った。
「やりましたな、遂に」
「王にまでなりましたな」
「うむ、かつて私はしがない草靴売りだった」
まだ関羽、張飛とも会う前のことだ。
「その私が王にまでなるとは」
「よきことです」
「まさにですな」
「うむ、皆のお陰だ」
特に、である。
「とりわけそなた達もな。これまで常に私と共にいてくれているからな」
「それも当然です」
「そう、誓ったではないですか」
二人はこの場でも劉備に笑顔で言う、三人は今成都にいる、その宮の中で話をしているのだ。
「我等は生きるも死ぬも共です」
「ですから義兄上と共にいることは当然ではありませぬか」
「そうか、ではだ」
劉備は二人の言葉にこれまでより深い笑顔になった、そして言うことは。
「このまま天下を一つにしてだ」
「はい、それからもですね」
「共に」
「そうだ、最後までな」
共にいようというのだ、天下を統一し泰平をもたらしてからも。
このことを二人に言いだ、さらに言うことは。
「ではこれからも頼むぞ」
「はい、最後のその時まで」
「我等は一緒です」
関羽も張飛も笑顔で応える、三人は誓い合った。
だがその誓いはどうなったか、劉備は夷陵の戦いで散々に敗れ白帝城に逃れた。そこで丞相である諸葛亮孔明と跡継ぎである劉禅に言うのだった。
彼は既に死の床にある、己に似た顔の息子と大柄だが中性的な顔立ちの丞相に無念の顔で言った。
「無念だ」
「戦に敗れたことがでしょうか」
「それもある、だが」
劉禅の問いに答える。
「今二人が傍にいてくれるが」
「関羽殿と張飛殿ですか」
孔明が劉備の言いたいことを察して言った。
「お二人ですか」
「そうだ、二人はもういない」
関羽は荊州での戦いで孫権に捕まり降ることを拒み斬られている、張飛は部下の裏切りに遭い暗殺されている。
残ったのは彼一人だ、それで言うのだ。
「共に生き共に死ぬと誓ったのだが」
「そのことは」
劉禅は父の言葉に何も言えなかった。
「まことに」
「それは無理だったやもな。では今からだ」
劉備は目の前が暗くなっていることを感じていた、そしてその暗闇の中に入り。
静かに眠ろうとしていた、だがその時だった。
無念の顔だった彼の顔が弱々しいが晴れやかになった、そして二人にこう言った。
「いや、誓いは守られた」
「誓いが」
「といいますと」
「関羽がいる、張飛もいる」
二人の目の前にいたのだ、今彼は暗闇ではなくあの桃園を見ていた。
その桃園の中に入りだ、彼は言うのだ。
「誓いは守られたか、そうか」
「では今父上は」
「お二人とですか」
「共にいる、ではな」
関羽と張飛、二人と共にいながらだ。
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