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西郷どんと豆腐
第四章

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「他は何も大きくないでごわすよ」
「いや、身体も声も大きいでごわすよ」
「その目もでごわす」
 確かにどれも大きかった、西郷は全てが規格外だった。
 小僧達は西郷に感心しながら再び桶を持った彼に問うた。
「それでそれは何でごわすか?」
「えらく大事そうでごわすが」
「豆腐というものでごわす」
 西郷は小僧達に正直に答えた。
「それをおから屋どんから貰ったでごわすよ」
「おお、そんな贅沢なものを貰ったでごわすか」
「有り難いでごわすな」
 小僧達も貧しい家にいる、薩摩藩は武士が多くまた土地が痩せている為そうした武士が多いのである。西郷や大久保だけが貧しいのではないのだ。
 その彼等も豆腐と聞いてそれで言ったのだ。
「いや、小吉どんは果報者でごわすな」
「全くでごわす」
「神様と仏様に感謝するでごわすよ」
 西郷も笑って応える、その大きな口を開いて。
「何よりもおから屋どんに」
 小僧達にこう言って彼等に別れの挨拶を告げてだった、家に帰り母にその豆腐とおからを出したのである。大久保は食膳のその豆腐を見てこう言った。
「何でごわすか、この白いものは」
「豆腐というものでごわす」
 西郷は大久保にもありのまま答える。
「おから屋どんがくれたでごわすよ、おいどんが指で触ったのでやるよ」
「おから屋どんがでごわすか」
「今回だけだと言っておりもっそ」
 このこともありのまま話す。
「一蔵どんも食うでごわす」
「そんな珍しいものをおいにもくれるでごわすか」
「いつも一緒にいるでごわす、それは当然でごわす」
 大久保はもう家族同然だというのだ、実際に家族ぐるみの付き合いをしていて西郷も大久保の家にはいつも行っている。それで彼もだというのだ。
「だから一緒に食うでごわす」
「わかったでごわす、それでは」
 こうして二人は生まれてはじめて豆腐というものを食べた、二人がはじめて豆腐を知った時だ。
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