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西郷どんと豆腐
第三章
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 その水の中の豆腐を触ってみた、そのうえで言うことは。
「何と柔らかいでごわすな」
「小吉どん、今何をしたでごわすか」
「いや、触ってみたでごわすが」
 うわ、と驚いた顔になる親父に普通に返す。
「そうでごわすが」
「触ったら駄目でごわすよ」
「何と、触るろ何かがあるでごわすか」
「何もないでごわすが」
 別に死んだりとかはしない、しかしというのだ。
「売り物にならなくなるでごわす」
「豆腐は売るものでごわすか」
「そうでごわす、おからと同じでごわす」
 親父は怒れるよりそのことを知らなかった西郷に思わず笑ってしまいそうしながら返した。
「売りものでごわす」
「そうだったでごわすか」
「そうでごわすよ、全く」
「いや、許しゃったもんせ」
 西郷は頭を深々と下げて謝罪した。
「おいどんが悪かったそ」
「わかればいいでごわすが」
「それでこの豆腐は」
「やりもっそ」
 苦笑いしながらの言葉だった。
「小吉どんに」
「何と、くれるでごわすか」
「触られては売りものにならないでごわす、それに」
「それに?」
「いつも素直に親御さんの言いつけを守る小吉どんへの贈りものっそ」
 その意味もあるというのだ。
「さあ、持って行くでごわす」
「いや、有り難いでごわすな」
 西郷は親父の言葉に笑って応えた。
「こんな美味そうなものをくれるでごわすか」
「今回だけでごわすよ」
「いや、このご好意忘れないごわす」
 西郷は笑顔で応えた、そうしてその豆腐を受け取って帰路についた。
 その家に変える途中の道の途中には悪戯小僧達もいた、その彼等は西郷を見て早速だった。
「おお小吉でごわすな」
「何か大事そうに持ってるでごわすな」
 見れば桶を両手で前に持って大切そうに歩いている。その西郷を見て言うのだ。
「驚かせてあの大事そうなものこぼさせてやるでごわす」
「そうするでごわすか」
 こう話してそしてだった。
 ひっそりと隠れて西郷を待ち伏せする、家と家の間に隠れ隠れたその場所から大声を出して驚かせるという基本的な悪戯だ。
「あの桶のものひっくり返させてやるでごわすよ」
「驚かせるでごわす」
 くすくすと笑いながら待っていた、そして。
 西郷が横に来たところで実際に大声を挙げた、だが。
 西郷は驚かなかった、まずは。
 その両手に持っていた桶をまず道の上に置いた、そうして。
「驚いたでごわす、誰でごわすか?」
「おい、それが驚いた姿でごわすか!?」
「違うでごわすよ!」
 悪戯小僧達は周囲を見回す西郷に対して出て来て突っ込みを入れた。
「全く小吉どんは違うでごわすな」
「そうするでごわすか」
「おお、おんし達何でそこにいるでごわすか?」
 西郷は呆れる彼等に気付いて問うた。

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