第三章
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「綺麗な花ね、ただ」
「ただ?」
「いえ」
自分でも寂しい顔になったことがわかった、けれどそれは自分で一瞬で隠してそのうえで彼に今度はこう言った。
「いい花ね」
「そう思いますよね、野原で見つけまして」
彼は花を見出した理由を熱く話してきた。
「それでなんです」
「絵にしたのね」
「薔薇等と違い派手さはないですが」
それでもだと、私に語ってくれる。
「綺麗だったので」
「それでなんですね」
「そうです、この絵も描き遂げます」
「絵は最後まで描いてはじめて絵になる」
「それは貴女が教えてくれたことですね」
「絵はそうよ。ただね」
今度は私から言った、彼に対して。
「人と人はそうではないわ」
「人と人は」
「そうよ、人と人のことは終わりがないわ」
私は絵を観ながら彼に話した。
「けれど終わりはあるのよ」
「終わりはなくとも終わりはあるのですか」
「そういうものよ、人と人はね」
私はこのことがわかっていた、けれど彼は私の言葉を目をしばたかせて聞いているだけだった、全く気付いていないという感じだった。
けれど私は彼にこのことを告げた、そして。
絵から目を離して彼に今度はこう言った。
「今から行きましょう」
「歌劇場にですね」
「もう席は用意してあるから」
「わかりました、それでは」
彼は今は私の言葉に笑顔で頷いてくれた、そしてだった。
食事と歌劇、それに夜を共にいてくれた。けれど朝になると。
まだ褥の中にいる私を置いて起き上がり服を着ながら申し訳なさそうに言って来た。
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