第四章
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「だから俺もなんだよ」
「御前のって」
「どうしたんだよ」
「これだよこれ」
自分の頭を右の人差し指でさし占める。
「これな」
「ああ、髪の毛か」
「それか」
「二十八できたんだよ」
そうなったというのだ。
「俺の親父も俺もでな」
「遺伝かよ、髪の毛の」
「それか」
「で、向こうのお義父さんもだからな」
そのゴルバチョフの髪型の人だ。頭の痣だけがない。
「で、目出度くな」
「僅か二十八歳でか」
「きちまったんだな」
「遺伝って本当に怖いな」
コルチェンコはしみじみとしているが暗い顔と声で言った。
「出会えた奇跡っていいことばかりじゃないんだな」
「禿も遺伝だからな」
「それもだからな」
「全くだよ。俺も息子もな」
どうするかという話にもなる。
「ちょっと毛生え薬買って来るな」
「ああ、まあ頑張れ」
「さもないと頭が寒いからな」
「これも奇跡かね、出会えた」
エカテリーナだけでなく彼女の父親ともだというのだ、奇跡はいい奇跡だけではないということを。
コルチェンコは実感してそしてまた言った。
「今になってわかったよ」
「結婚してからだよな、本当に」
「そこからもだからな」
「結婚してからも考えてたんだけれどな」
エカテリーナの体型のことだ。
「かみさんはよくても親父さんか」
「御前の方もだよな」
「そうなるよな」
「そういう時はな」
どうするかというと。
「飲むか」
「ああ、ウォッカな」
「それを飲むか」
「ロシアは仕事中でも飲んでいいからな」
ロシアでの特権だ、若しロシアで飲むなと言えばその政治家は終わる。そのゴルバチョフがいい例である。
「それで憂さ晴らしだよ」
「前向きにか」
「これ前向きか?」
「どうしようもないことを悩むよりはましだろ」
同僚は首を捻ったコルチェンコに笑って返した。
「そうだろ」
「それもそうか」
「じゃあいいな、飲むぞ」
「ああ、仕事の合間だから少しにしてな」
「本番は仕事が終わってからだよ」
同僚達はコルチェンコに酒を勧める、そして彼自身もだった。
その酒を飲む、彼はその中で遺伝の素晴らしさと怖さを実感した。人が出会えるという奇跡は素晴らしいものだがそれと共に恐ろしいものでもあるということもまた。
出会えた奇跡 完
2013・2・22
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