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三年坂の女
第五章
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「先生、来年は絶対にです」
「絶対にとは」
「修学旅行には来ないで下さい、特にこの坂にはこの一年は絶対に近寄らないで下さい」
「それはどうしてですか」
「はい、この産寧坂はまたの名を三年坂といいまして」
「呼び方が近いからそう呼ばれるのですか?」
「いえ、違います」
 ストーンリバーの予想をすぐに否定した、しかも強く。
「この坂で転ぶと三年以内に死ぬと言われているからです」
「三年ですか」
「それで三年坂と言われているのです」
「そういえば私は」
 ここでストーンリバーも思い出した、丁度二年前にだ。
「この酒で転んでいますね」
「その時にあの人がはじめて出て来ましたね」
「はい」
「そして去年も今年」
「ということは」
「そうです、あの人の素性はわかりませんが」 
 それでもだというのだ。
「間違いなく普通の人間ではありません」
「では」
「はい、そもそもあの様な着物を普通の人が着られません」
 今はこのことも疑問に思うことだった、金持ちの奥さんだのが着るものですらないというのだ。
「あそこまでは」
「では」
「はい、あの人と会ってはなりません」
「若し会えばですね」
「どうなるかわかりません」
 考えられる最悪の事態はあえて言わなかった。
「ですから」
「わかりました、それではですね」
「絶対にここに来てはいけません」
 こう言って念を押す。
「この一年の間は」
「わかりました」
 ストーンリバーも今は蒼白になっている、そしてだった。
 彼は赤城と約束して坂には一切近寄らなかった、京都にすらだ。 
 そして次の修学旅行も引率は辞退した、赤城はこの年の修学旅行は彼だけで坂を歩いた。
 これまでと同じ様に坂を下る、すると女はまたいた。
 しかし女はこれまでの無表情な能面の様な顔からいささか残念そうな顔になっていた、そしてその顔で。
 赤城の前から消えた、そのまま女を見ることはなかった。
 ストーンリバーは次の年は修学旅行の引率に参加した、そして赤城と共に坂を下った。赤城はその時にストーンリバーに話した。
「若し去年あの人に会っていれば」
「その時はおそらくですが」
「私は、ですか」
「今こうしてここにおられなかったでしょうね」
 こうストーンリバーに告げる。
「そうなっていました」
「そうですか、ではあの人は」
「死神かその類だったかはわかりませんが」
「人間ではなかったですね」
「それは間違いありません」
「幽霊だったか妖怪だったか」
 ここでは妖精とは言わなかった、スコットランドでは妖精となるが彼も日本文化をかなり学んで知ってきたのだ。
「どちらだったのでしょうか」
「それもわかりませんが。とにかくこの坂で転ぶと危ういのです」
「三年坂ですか」
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