第七章
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「確か吸血鬼だよな」
「それ皆言うわね」
「ドラキュラ伯爵だよな」
「ブラド四世ね」
「吸血鬼の国だよな」
こう桃香に言うのだった。
「そうだよな」
「そうよ、イメージ通りよ」
「吸血鬼って実際にいるのかよ」
ここでふとした感じでこうも言った禎丞だった、イカ墨のパスタを食べグラスに赤ワインを入れてそのうえで飲みながら。
「ルーマニアに」
「いると思う?」
桃香はくすりと笑ってその禎丞に問い返した。
「実際に」
「どうだろうな、そう言われるとな」
「そういう存在信じる方みたいだけれど」
「結構な、信じてるよ」
実際にそうだと返す禎丞だった。
「そういうのも」
「そうなのね、もっとも実際に吸血鬼がいてもね」
桃香は自分のペースで己の前に向かい合って座る禎丞に話す。
「血を吸うとは限らないわ」
「えっ、吸血鬼っていったらな」
「血を吸うものだっていうのね」
「だから吸血鬼なんだろ」
その桃香にきょとんとした顔で返した。
「血を吸うから」
「確かに血を吸うわ。けれどね」
「若しかして他のものもか」
「飲んだり食べたりするわよ」
「そうだったのか」
「それで普通に恋愛をしたり生きているのよ」
「人間の世界にか」
禎丞はこれまでそうしたことはとても考えられなかった、吸血鬼といえば血を吸い闇の中に生きるものだと思っているからだ。
だがそれは違う、桃香は思わせ振りな笑みで彼に話していく。
「そうよ、生きているわよ」
「けれど夜じゃないと駄目だろ」
「ドラキュラ伯爵もカーミラさんも普通の日の下にいるわよ」
「あっ、そうか」
「ついでに言えば大蒜も平気だしね」
それも大丈夫だというのだ、吸血鬼にとって毒である筈のそれも。
「お水も平気よ」
「何かイメージ狂うな」
禎丞は首を傾げさせて言った。
「それはまた」
「そうよね、ついでに言えば十字架もね」
これもだった。
「キリスト教と関係ないと意味ないのよ」
「そうだったのかよ」
「お坊さんに十字架なんて意味ないでしょ」
桃香はあっさりとした口調で禎丞に告げた。
「そうでしょ」
「言われてみればそうだな」
「ちなみに私の家仏教だから」
その仏教だというのだ。
「真言宗ね」
「ああ、弘法大師の」
「そう、高野山にもよく言ってるわよ」
真言宗の本山でもあるそこもだというのだ。
「これでも信仰心あるのよ」
「それはまた意外だな」
「だから十字架はほんのアクセサリーなの」
いつもしているそれもだというのだ。
「何ともないわ」
「そうなんだな」
「それでね、吸血鬼だけれど」
「ああ、それな」
「血を吸わないと吸血鬼じゃないわよね」
禎丞に対して思わせぶりな笑みで語る。
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