アインクラッド 後編
In the dream, for the dream
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が舞い、静寂がそっと包み込む。
「……また、中層プレイヤーの援護ですか」
背筋から忍び寄るゾクリとした悪寒を振り払うと、エミは背後からの声に振り返った。
この世界で最強と謳われるギルド《血盟騎士団》。その白を基調に赤の十字架があしらわれたユニフォームの上を、栗色の髪が舞う。
《血盟騎士団》副団長にして攻略組トッププレイヤーの一人《閃光のアスナ》は、大きなはしばみ色の瞳を睨むように細めた。
「あなたのやっていることが完全に無駄だとは言いませんが、もっと直接的な攻略の時間を増やすべきです。ただでさえクリスマスボスとやらのせいで前線に出ているプレイヤー数が減少しているというのに、攻略組の、しかもトッププレイヤーの一人であるあなたがそんなことをしている暇なんて、我々には与えられていないんです」
「ご、ごめんなさい。……その、あの人たちにどうしてもって頼まれて……」
「にしては、随分と積極的だったように見えましたが」
「そんなことは……」
徐々に尻すぼみになっていくエミの受け答えを冷眼視しつつ、アスナは溜息をついた。
「ハァ……流石は《モノクロームの天使》、とでも言っておきましょうか」
「…………」
この世界の基本法則はあくまで“リソースの奪い合い”であり、“他人より自分”という考え方だ。もちろんダンジョンなどで誰かが窮地に陥っていた場合、助けられるのであれば助けようとするだろう。しかしそれは、他人のためなどという崇高な理念などでは決してなく、高レベルプレイヤーが減ればそれだけ攻略が難しくなるという単純な損得勘定に基づいた打算でしかない。自らを不利な状況に追いやってまで他人を助けようとするプレイヤーなどは存在しないだろう。……彼女、ただ一人を除いて。
――殆どの、否、彼女を除く全てのプレイヤーが自己の保身と強化に勤しむ中、彼女だけは他人のために動き続けた。誰からであろうと助けを求められれば即座に応じ、頼まれればどんなことでも請け負った。
本来最重視すべきレベリング効率を無視してまで他人のために動くというそのありえないスタイルに、エミ自身が纏う艶やかな黒髪と純白の服、そして愛らしい顔立ちが重ねあわされた結果。それが《モノクロームの天使》という大仰な二つ名なのだ。
怯えるように胸の前で両手を縮こめるエミに、アスナはもう一度溜息をつくと、一枚の封筒を取り出して差し出した。
「団長からの言伝です。何でも、あなたに折り入って依頼があるとか」
「ヒースクリフさんから?」
数多くの頼まれごとの経験があるエミだったが、《血盟騎士団》しかもその団長である《聖騎士》ヒースクリフからの依頼などはもちろん初めてだ。疑問符を頭に浮かべながらおずおずと封筒を受け取る。チラリとアスナを見る
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