十二日目 十二月二日(金) 後編
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綺麗だなって思ったくらいで……」
何かが引っ掛かったのか、一瞬絢辻の歩みが止まった。表情が更に陰った。
「そうなんだ……。じゃあ、生かしておけないね」
「え……?」
純一には、黒い竜巻が巻き起こり、背中に黒い翼が生えた絢辻が、もの凄い速さで飛んで来たかのように見えた。黒い二本の手が伸びて来て、純一の首を包み込んだ。
「残念。クラスメイトが一人減っちゃう」
絢辻司の顔が目の前にあった。身体がぎゅっと押し付けられ、柔らかい膨らみが仄かに感じられた。純一の脳内が桃色に染まり始めたが、すぐに現実は純一を成敗した。彼女の華奢に見える手に、力が入りだした。息が、少しずつ苦しくなる。
「ご、ごめん。あ、あやまるから、ゆ、許して」
「ふふ、どうしようかな」
絢辻司の表情は、どこか歪んでいて、瞳は空虚で何を見ているのか解らなかった。さっき焼却炉で見た時の顔に良く似ていると、純一は思った。今にも壊れてしまいそうな、儚い顔。
絢辻の手から力が抜け、彼女が純一の首から手を離した。
「橘君。これから、暇でしょ?」
にこりといつも通りの笑顔を浮かべる絢辻。急に問われて何と答えたらいいのか解らず、純一ははっきりしない返事を返す。
「ひ・ま・でしょ?」
絢辻の笑顔が、見たことも無いくらい邪悪になった。
選択の余地は無かった。
「……酷い目にあった」
「あなたってほんと変態ね。あれだけ女の子に嫌われるのは、才能ね」
夕暮れの帰り道。クラスメイトと良く似たサーヴァントが、軽蔑の眼差しを純一に向けている。
「……天使なんかじゃなかった。悪魔……いや、あそこまでいくと魔王だよ」
絢辻司の黒い手帳を拾った後の、散々な出来事がまた頭の中をぐるぐる駆け巡り、純一は憂鬱になる。隣にいるセイバーが、瓜二つなのも無駄に心を騒がせていた。
(やっぱり顔が似てると性格も似るのか)
「あれ、橘君? 可愛い彼女さんと帰り?」
「え? あ、塚原先輩」
輝日東高校へ続く坂道を登って来る女子生徒が居る。彼女は鋭い目付きをしていて、どこか近寄り難い雰囲気を漂わせている。しかし知る人が見れば、今彼女が微笑んでいるのが解るだろう。彼女こそ、森島はるかの親友にして、通称はるかを守る女神の騎士″。
「お疲れ様です。えっと、今日は部活じゃないんですか?」
「ええ。あ、でも部の用事で出てたから、部活と言えば部活かな」
「そうだったんですか」
「絢辻さんも、今日は実行委員の仕事はいいのかしら?」
「え? いえ、今日は外に用事があるんです」
にこやかに返事をするセイバー。変わり身の早さは、この顔に備わる基本スペックという事なのか。
「部室寄るから、もう行くわ。またね、お二人さん」
微笑を浮かべながら、塚原響は坂道を登って行った。
「誰?」
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