十二日目 十二月二日(金) 後編
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怪我した小鳥のさえずりは、震えていた。
「どれだけ続ければ、手に入るの? ねぇ、まだ続くの? わたしは、いつになったら、一人じゃなくなるの? もう、耐えられないよ……。ううん、まだ、頑張れる。……頑張るの? まだまだがんばらなきゃ、いけないの? ……しかたないよ。だって、わたしにはだれもいないんだから。だから、うん、そう。だから……だ、か……ら……」
純一は踵を返した。これ以上、盗み聞きするのは、申し訳なかった。触れられたくない部分を、見てしまったと思った。自分は絢辻とは、単なるクラスメイトでしかない。そういう浅い関係の人間が、ここにはいちゃいけなかった。純一には、身体を震わせて嗚咽する絢辻が自分自身と、何度か重なって見えた。
(やばいな。ちょっと引きずられちゃったか。不意打ちだったもんな)
純一は、心の奥底から、忌々しいものが噴き出して来るのを感じた。猛毒が樹を内側から腐らされていくように、忌々しいものが純一の気持ちをどん底に引きずろうとする。
(……深呼吸だ。大丈夫、大丈夫。……はは、こんなんじゃセイバーに怒られちゃうな)
二年前のクリスマスの記憶が今もまだ自分を害する事に、気分が滅入る思いだった。足取りが自然とゆっくりになる。
(……鞄取って帰ろう。そして押し入れに入ってもう寝よう)
自室にある押し入れは、純一のもっともプライベートな拠り所だった。扉を閉じて訪れる温かい暗闇は、母のお腹の中にも似て心地良い。天井には、自分で作った簡易プラネタリウムが優しく光っている。誰も自分を傷つけない安心がそこにはある。やってくる人だって美也くらいなものだ。
純一は救いの暗黒を思いながら、二年A組の教室に向かった。
「……落し物?」
鞄を取って、さぁ帰ろうと思った時、教室の床に落ちてるそれを、純一は見つけてしまった。正直今日は気分が沈んでいたので、さすがの純一も落し物を見て見ぬ振りをしようとした。だが、自分でも解りきっていたが、そんなこと出来る訳が無く、純一は落ちていたものを拾った。それは長方形の形をした、厚みのある黒い手帳だ。名前でもどこかに書いてないかと、手帳の外側をまず見る。真っ黒で持ち主の手掛かりは無い。少し気が引けたが、名前の書いてあるそうなところを開いてみた。
「橘君、それ……」
教室の外から、聞き覚えのある声がして顔を上げた純一は、一瞬はっとして身体が硬直した。絢辻司が教室の入り口に立っていた。落ち着いたのか、今の彼女はいつもの絢辻司に見える。
「あ、これ絢辻さんの? ごめん、名前が書いてないかと思って少し開いちゃった」
彼女の顔が少し陰った。絢辻司が近づいて来る。
「橘君、何か見た?」
「え、あ、いや。特に何も見てないよ」
「そう……」
「うん。名前探して、ちょっと見えちゃったけど、字、
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