暁 〜小説投稿サイト〜
ヴァレンタインから一週間
第28話 誓約
[8/11]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
変わらず雲の多い夜空故に見える事のない蒼穹の下、蒼白い人工の光の元に佇む二人の少女が纏うのは、共に良く似たペシミズムとも言うべき雰囲気。
 触れると簡単に消えて仕舞いそうに感じる、儚いと表現すべき氷の芸術の如き容貌で見つめ合う姿は、何故か見ているだけで涙が出て来そうになる。

 そして、二人の間に流れるのは沈黙。
 俺以外のこの場に存在する人物。亮も、綾も。それ以外の良く見知った、そして本来は……異世界に住む俺が知らない人物たちも、何故か彼女ら二人の対峙を見守る。
 そう。それは沈黙と言う名の対峙。

 真っ直ぐに紅い瞳で有希を見つめる万結は、何かを伝えていた。
 その瞳を、清澄な湖の如き静けき瞳で正面から受け止める有希。

 何か強い気が渦巻く数瞬の間。その間に交わされる言葉無き会話。
 その後……。
 先に視線を外した万結が、その瞳の向く先を有希から俺へと移した。
 但し、その瞳に浮かぶ色は、先ほどさつきが同じような沈黙の後に俺に向けた物とはまったく違う色。

 彼女に相応しい無色透明のそれで合った。

 そうして懐から一束の紙。一辺、二十センチほどの長方形の紙に、漢字に因る呪文を書き記した呪符の束を俺に差し出して来る。

「ありがとうな、万結」

 その呪符の束を受け取る俺。但し、俺はそんな物を必要とはしていない。
 いや、確かに、呪符を駆使してしか使用出来ない特殊な仙術を行使する心算ですが、それは俺の仕事では有りませんから。

 まして、当然のようにその事は万結も知って居るはず。
 何故ならば、それは彼女に因り今の俺に伝えられた技術。そして、それは不死身の邪神との戦いの趨勢を決するかも知れない切り札と成り得る仙術ですから。

 しかし、彼女は、それが判っていながらも俺に対してその呪符の束を差し出して来た。
 その理由は……。

「無事に帰って来て欲しい」

 彼女が、彼女に相応しい声でそっと囁いた。
 その声と共に吐き出された吐息が、その口元を季節に相応しい色にけぶらせる。

 この色も、彼女が生きて、今其処に存在して居る証拠。
 そして彼女が生きてここに存在して居るのに、俺がここ(この世界)に存在していない証のようにも感じられた。

「あぁ、無事に戻って来る」

 そう、強く答える俺。
 二人の丁度中心に存在する呪符を橋渡しにして、俺と万結が繋がる。
 今まで、絶対に繋がる事の無かった。双方が生まれてから絶対に繋がる事の無かった縁の糸が、再び繋がった瞬間でも有った。

 永遠にも等しい一瞬。その瞬間に確信する。
 彼女は、……彼女だと言う事を。

「その時に初めて、オマエさんの名前を呼ばせて貰うな」

 俺の意味不明な言葉に微かに。しかし、強く首肯い
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ