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SAO−銀ノ月−
第五十九話
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だけれど。

「まだSAO事件は、終わってないの……?」

 顔から血色が引いたリズに対し、俺は残酷にもコクリと頷く他無かった。

「そういうことに、なる……。何か解ったから連絡するから、アドレスを交換してくれ」

「あ、うん……」

 あらかた説明が終わってリズと携帯のアドレスを交換すると、帰るのに予定していた時間へとなってしまっていた。ほとんど何も学校を見ていないのだが、これ以上学校にいてはキリトとの待ち合わせに遅れてしまう。

「……俺はそろそろ『向こう』に行ってくる。またな、里香」

「……待って!」

 後ろ髪を引かれる前に足早に立ち上がった俺に、里香は俺の手を掴んで無理やり止めた。しかし、里香の口から次の言葉が紡ぎ出されたのは、さらに数秒の時間を必要とした。

「あ、あたしも一緒に……」

「……無理するなよ」

 ……俺が知っているリズベットならば、必ずそう言うとは思っていた。だけど、彼女はアインクラッドで鍛冶屋をやっていたリズベットではなく、ただの少女である篠崎 里香なのだ。

「里香。お前の手、震えてるじゃないか……」

「……ッ!?」

 俺を掴んでこの場に留めている彼女の手は震えていて、未だに里香がSAOのトラウマを克服していないのだと証明している。……俺も、人のことは言えないのだけれど。

「それは……あんただって……きゃっ!」

 里香の言葉が終わる前に、その震える手を俺の手で包み込むと、次第にその両手の震えは収まっていく。同時に俺の手で震えも収まり、アインクラッドではついぞ感じることが出来なかった、人肌の温もりが心地良い。

 ……そうだ、いくらVRMMOが『向こう』として確立しようとも、こここそが現実だ。里香のことが心の温度ではなく、体で感じることが出来る……この世界こそが真実だ。

「……絶対やりきるからさ。約束しよう」

「解った、わよ……」

 名残惜しいが里香の手を離すと、今度こそ家に帰るべく準備を完了させる。つまらない学校見学かと思っていたが、里香と逢えるとはかなりの成果であったと言える。

「あ……!」

 手を離すときに聞こえた、里香の残念そうな声は、こっちも照れるので聞こえなかったことにする。

「久々に逢えて、ナイスな展開だったよ、里香」

「うん、あたしもよ。約束、絶対に守りなさいよね!」

 そうして俺は学校から離れていき、ALOに行くために寒いなか家へと帰っていく。父や母に《アミュスフィア》が見つかれば、大変なことになるのは目に見えているので、急がなくては。

 ……そう、俺は急いで帰ってしまったので。

「……よし」

 この学校に残った筈の彼女が何かを決意したことを、俺が解るはずもなかった。
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