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東方小噺
天の少女の厄払い
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はない。日は差し暖かな風が吹く。
 狐の嫁入りと呼ばれるそれは雫を輝かせ清浄な空気を山に漂わせた。
 蒼い天が泣くが如く、冷たく暖かい涙を降らせていた。
 静寂に包まれた山で彼女は竿を握って樹木の下にいた。大木に覆われた川辺の石の上、雨宿りをして空を見上げ、木の葉を叩く音に耳を澄ませていた。
 足元に広がる川の水は若葉を薄めたような透明さを残したササ濁り。雨音が音を消し姿を曇らせる釣りの好機。
 何も考えず、涼しい山の空気を感じながら機を待つそれは彼女の好きな時間だった。

 適度に何匹か釣った所で気配がした。
 酷く朧げで儚い、厄の気配。
 あの少女がいた。

 雨の中、傘も差さずに彼女へと向かっていた。手には見慣れぬ剣を握り、帽子を深く被りその顔は見えなかった。
 濡れてもなおその輝きを失わぬ蒼い髪は頬に張り付き、その顔には雨の雫がぽたりぽたりと滴れ、流れていた。
 まるで泣いているようだ。
 彼女はそう思った。

 ああ、空の少女が泣いているから天が泣いているのか。ふとそう納得した。
 人を外に出さず閉じ込め、一体少女は何を隠したかったのだろう。
 少女が見せぬ狐は一体、何なのだろう。

 木樹の傘に覆われる手前で少女は止まった。
 黙って見やる彼女に向かい、彼女はポツリと言った。
 鬼に敗れ地を取られた。巫女に敗れ隙間の大妖に敗れた。
 言葉が途切れる。だが彼女は何も言わない。鬼に敗れた程度、前にも聞いた。
 ならば恐らく、これは彼女の語りたきことではない。この続きがあると。
 
 その予想は正しく、少女は続きを語り始めた。
 争いに天界のものである緋想の剣を持ち出した。そのことで父様に叱られた。何一つ許されず認められず、周りも私を嘲笑った。
 私の家は真っ当な天人ではない。修行など収めてなどない。ただこの地の要石を警護した神官だ。幻想郷一帯の地震を担った名居守に仕えていたからお零れを貰っただけ。
 不良天人。皆そう呼ぶ。
 物心ついた頃に、気づけば天人になっていた私を、物心ついた頃からそう呼ぶ。蔑まぬ者など一人だけ。
 父様は天人たらんと自らを律し、そして他を気にする。
 安寧を貪り身を委ね、名を気にするのだ。
 
 ああ、と彼女は理解した。少女の言わんとすることが、少女の身に起こったことが分かった。
 叱られたのだろう。いや、“それ”を叱りと呼んでいいのだろうか。
 子の罪は親の罪禍。親の罪は子の咎。
 地の妖怪と関わり天の宝具を持ち出した少女の親は、他への示しを為さねばならなかっただろう。
 至らぬのなら、叱ろう。
 足りぬなら教えよう。
 だが性根を、天の道理を理解せぬ少女を守ればそれは親として積を問われ共に軽んじられる。

 名を気にするならば、天人足らんと
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