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東方小噺
天の少女の厄払い
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これが厄だ。不幸というものだ。人が寄り代に押し付けてまで避けることを望むモノだ。そう願わざるをえないものだ。
 どれだけ足掻こうと逃れられぬ大河のうねり。長い歴史の果てに知った届かぬ領域。
 寄り代を立て慰めるよりほかないものだ。貴様が語るものではない。私がどうにか出来るものでもない。

 天人は修験の先の者。それに語るか厄神。それは足掻いた者だけが言える言葉だ。貴様が言えることではなかろう。
 カカカと嗤う少女は言った。
 鍵山雛、山に鍵かけられた雛人形、それが貴様を繋ぐ鎖かとただ嗤う言葉が彼女の心に手をいれる。
 愚者は経験から学び賢者は過去から学ぶと言う。だが過去しか知らぬ者は賢者などではない。
 本の文字しか知らぬ者の言葉に誰が耳を傾ける。そんなものなら本で事足りる。

 私を正したくば己の言葉で語れ、自らの意思で自らの思いを込めて説得しろと少女は言う。
 そらまた逃げた。
 抗えぬから仕方なし。それは現状を望まぬが故の言葉だろう。他者に触れえぬ己が身が恨めしいか。
 いっそ自らも不幸にのまれれば言い訳できたろうな。不幸だと。

 額から針を生やす少女が川べりに近づくのを見て彼女は思った。どれだけ言っても無駄だと。
 ならば体で教えよう。望んだとおり不幸を与えて。そしてこの苛立ちも晴らそう。
 ふわりと彼女は宙を舞い、川を越え少女の元へ。微かに目を見開いた少女の手を取る。
 厄が動くのを感じながら、丁度いい度合いで彼女は少女を突き放し離れる。

 これから貴様には不幸が待ち受ける。抗えぬ波がその身を打つだろう。それでもなお再び私の前に姿を現し不幸が逃げだというのなら認めよう。
 


 厄を身に纏い帰っていく少女の背中を見て、何故だか彼女は小ささを感じた。
 そしてふと思い出し、気づいた。
 自分の心を揺らしたあの眼は澄んでいたのではない。
 その言葉に覚えた感情は苛立ちではない。

 少女の瞳は空虚だった。
 あの言葉はそうであって欲しいと、自らも信じられぬが故の願う言葉に聞こえた。


 空の心と体。
 心を揺らしたのは憐憫の情だった。




 





 


 くるり。くるり。時は巡る。
 廻るとは巡り戻ること。春は夏秋冬と巡りまた春へ。後ろを向いた目はまた前を見据える。
 ならば時は廻るのではなく流れるのだろう。川を下る雛人形のように、逆らえぬ流れに身を乗せ下っていく。
 逆流はない。一度起きた事は二度となくせない。
 後悔しても嘆いても、過去に手は入れられない。

 若さ故の過ち。過信の驕り。無知の罰。
 それを理解できた時に初めてその意味を知る。
 空の器には何が満ちるのだろう。

 しとしとと雨露が天から降り注ぐ。雲
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