天の少女の厄払い
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とく雄叫びを上げていたから舌でも噛んだたのだろう。
痛むのか少し抑揚がおかしいながら、その言葉は酷くはっきりと聞こえた。とっくに認めていたはずの彼女の胸に、僅かにシコリを残した。
近寄るな、ではなく近寄らないで欲しいと願ったな。皆不幸を嫌うと、その事で排斥でもされたか。拒絶されたのが恐ろしいか。仕方がないと、そう諦め納得したのだなお
前。取り返しがつかなくのが恐ろしいのは、一体何のためだか考えてみるがいい。
幻想郷には貨幣文化がある。それは人が生きている以上当然のこと。そして人と関わりがある神や妖怪もその輪に入っている。
いくら妖怪や神といった人で無しと言えど食欲知識欲といった人が持つような欲求はある。その欲求を満たす為には経済の輪に加わる他ない。
人に忌み嫌われる彼女といえどそれは同じ。厄を身代わりとされる雛人形を作り、里へ売りにゆくことがしばしば。
無論、人が彼女のその手に触れ銭を落とすことはない。無人の販売所を設けそこで売っている。
厄神の怒りを買うのも怖いのだろう。無人といえど盗みが起こることもない。
そんな雛人形を川辺でチクチクと作っていたある日、地面が揺れた。
針で指を突き刺し心の中で涙目になりながら、表面は無表情で何が起きたのかと彼女は見回す。
答えはすぐに出た。
遠くから声がした。
少し前に会った天人の少女だった。彼女に向かってドヤ顔で全力疾走していた。
無限の回転の力を込めた針を少女の額に撃ち込み、悶絶している相手を見ながらふわりと彼女は距離を取る。
川を挟み対岸に。巨石の上で足を揃え少女を見やる。
何用だ愚か者。
そう問うた彼女に少女は馬鹿にしたような憎たらしい顔で笑う。
暇だった。だから少し異変を貰いに来た。
愚かな少女に彼女は僅かな怒りを込め睨む。
異変ではなく不幸、不幸は自ら望むものではない。望まれざる不運故の、逆らえぬ道理。望むものではない。先日の折、貴様にも舞い降りたはず。
逃げ口上だと少女は嘲笑う。
不幸などなかった、ただ少しばかり鬼と喧嘩して負けただけだと。最高位の妖怪を示しながら不幸ではなく、あれは楽しかった。
次は潰すと少女は言う。
自らの力で逃れられるのと諦め、仕方がないと諦観するから不幸だと皆のたまうのだ。逆らえぬ力であれば楽だな、足掻かずともいい理由だ。天に押し付ければいいのだ。逃げだ。
どこまでも透明な瞳で、どこまでも驕りに満ちた言葉を吐く少女。
何故だかその言葉が彼女の心にささくれを作り、酷く苛立つ。
懐からひとつ人形を取り出し、彼女は川へと放る。
クルクルと。川に流され廻り無力に流れ、そして岩にぶつかり渦に沈んだ。
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