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ファルスタッフ
第一幕その四
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第一幕その四

「わしは九月半ばの快い夏の様に魅力に溢れておる。まさにお似合いだ」
「そうですかね」
「どうだか」
「お似合いなのだ」
 また目を怒らせてそういうことにする。
「それでだ」
「はい」
「何でしょうか」
「御前達にやってもらいたいことがある」
 あえて勿体ぶって二人に告げる。
「よいか。この手紙をだ」
「そういえば昨日必死に書いておられるかと思えば」
「それでしたか」
「左様。ピストラは」
「はい」
 ピストラは名前を呼ばれて応えた。ファルスタッフはその彼に一通の手紙を差し出した。
「御前はこれをアリーチェ夫人に。バルドルフォ」
「何でしょうか」
「御前はこれをメグ夫人にだ。それぞれ頼むぞ」
「いや、それは旦那様」
「ちょっと」
 しかし二人はここで難しい顔をファルスタッフに対して見せるのだった。当のファルスタッフもすぐにそれに気付いた。
「嫌なのか?」
「我々とて騎士の端くれです」
「そうです」
 二人はこのことを強調してきた。
「戦場では馬に乗る身分。それでどうして」
「この様なことに手を貸しましょうか」
「何故だ?」
「それは言うまでもありません」
「禁じられているからです」
 二人はそれは禁じられていると言うのだ。
「ですからそれは」
「お受けできません」
「何に禁じられているのだ」
「名誉です」
 ここでは二人の言葉は完全に重なった。
「ですから申し訳ありませんが」
「この申し出は」
「ええい、役立たずめが」
 ファルスタッフはそれを聞いて早速怒り出した。
「何が名誉か、不名誉の塊が」
「旦那様」
「幾ら何でも今のお言葉は」
「いいか、聞くのだ」
 怒ったまま二人に怒鳴る。
「わしにしろ必要となれば神様に目をつぶってもらい」
「それはいつもでは?」
「先程のお財布のことといい」
「だから聞け!」
 本当に怒っている。
「名誉を棚にあげていんちきといかさまに精を出しずるく振舞っているし方針も変える」
「それもまた」
「いつもでは」
「だから聞けと言っているのだ!」
 ここでもその強引さを発揮する。
「御前達ときたら山猫みたいな目つきと不愉快な薄笑いを浮かべて名誉にしがみついている。そんな連中に何が名誉か。大体名誉で腹が一杯になるか」
 これこそファルスタッフの本音だった。名誉なんぞ糞くらえ、そういう考えなのだ。
「名誉が傷ついた足を治すか。何も治せない、名誉は医者ではないのだ」
「それはそうですが」
「ですが」
「名誉はただの言葉だ。ただ空を飛ぶだけのもの」
 彼にとってはその程度のものでしかないということだった。かなり正直だ。
「死人にも必要のないもの。生きている奴にも価値はない。甘い言葉がそれを膨張さ
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