裏通りの鍛冶師
とあるβテスター、お願いする
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捨てたいのは山々なところではあるものの。
今回に限っては、寝過ごしたこっちにも非があるしなあ。
「一応、謝っておこうかな……。シェイリは───」
「……ふにゅ……」
「……。まあ、いっか、一人で」
シェイリを起そうかと思ったけれど、直前で思い直した。
隣のベッドですやすやと眠る彼女は、あまりにも気持ちよさそうに熟睡中だったため、無理に起こすのも憚られたからだ。
インスタント・メッセージでリリアに今から向かう旨を伝え、軽く身支度を整える。
この機能はメッセージが相手に届いたかどうかを確認できず、更に相手が同じ層にいなければ無効になってしまうという欠点はあるものの、あれだけ大変な思いをした後で狩りに行くような気力は、彼にも残っていないだろう。
それ以前に、リリアがアルゴから逃げ切れるとも思えないし。
僕の予想が正しければ、彼は裏通りの定位置で不貞腐れていることだろう。
「……って、早っ」
案の定。
僕がメッセージを送って一分と経たないうちに、リリアからの返信が返ってきた。
内容は、『さっさと来い』───早かっただけあって、なんとも簡潔極まるメッセージだ。
こちらも一言で返信し、ウィンドウを閉じる。
「ふぁ……?」
と、僕がウィンドウを操作する音に反応したのか、シェイリが小さく息を漏らした。
「ん、なんでもないよ。おやすみ」
「ふぁい……」
寝ぼけ眼で起きようとする彼女を寝かし付けるように、そっと頭を一撫でする。
どうやらほとんど無意識だったらしく、僕が小声で囁くと、安心したように再び寝息を立て始めた。
───いつも通りの、なんとも無防備な寝顔。
手を伸ばせば届くところにいる、僕の大切なパートナー。
彼女の寝顔を眺めているうちに、本物だとか偽物だとか、さっきまで散々考えていたことは───もう、どうでもよくなっていた。
あの時確かに感じた、嫌な予感。
彼女がいつか、僕の前からいなくなってしまうような───そんな気がした、けれど。
「……よし」
だったら、尚更。
僕は、もっと強くなる。
強くなって、この手で彼女を守り抜く。
今は、ただ、それだけを。
そのことだけを、考えればいい。
───だって、僕は。
手を繋いで。
僕は少し照れくさくて。
彼女が笑って。
そんな、いつも通りの───当たり前のような日常、当たり前のような姿を。
守りたいと───思ったんだから。
「いってきます」
だから、そのためにも。
僕も、怖がってばかりじゃいられない。
まずは、今の自分にできることから───ひとつずつ、始めてみようじゃないか。
────────────
「遅せーよ」
裏通りの定位置へと到着するなり、僕は仏頂面をしたリリアのお出迎えを受けるこ
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