第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
007 鍵は情報
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たら?」
ジェシカはそれが聞いてはいけなかった質問であることに、気がついた。フロルがジェシカを見つめたその目の中に、隠し切れていない狂気が見える。
「どうしようかね」
その声色は、まるでフロルがデートの最中に発するように、優しいものだった。
だからこそ、ジェシカは怖かった。
ジェシカは目の前の、自分の彼氏が未だに理解できない。
丸2年も付き合ってきたのに、自分が好きになって付き合い始めた男なのに、ジェシカにはまだフロル・リシャールがわからない。
彼には誰も触れさせない闇がある。
それに気付いたのは、ジェシカが誰よりもこの2年間一緒にいたからだった。
2年間交際を続けてきて、手に入れた成果がそれだった。
それに知った時、自分が今までフロルという人間を形成するその表面だけを見ていたことに気付いた。
そして彼が時折抱く狂気。
ジェシカは知らなかったが、それは殺気と呼ばれるものだった。
人が人を殺したいという思い。
フロルが20年間生きてきて、ヤン・ウェンリーを救いたいという思いの果てに抱いた感情であった。
だが音楽を愛し、彼を優しく愛してくれる男を好んだジェシカには、それがなんなのかわかるはずもない。
わからないのに、怖かった。
ジェシカには、今のフロルが堪らなく怖かった。
フロルはジェシカの目に疾った怯えの色に気がつき、目を伏せた。
音の鳴らない舌打ちをする。
怖がらせる気はないのに。
どこで間違ったのかわからない。
いや、最初から無理だったのかも知れない。
もう、漠然と気付いている。
ジェシカとは、限界だ。
「なんだか、酔いすぎたようです」フロルは軽くふらつきながら、立ち上がった。
「おっと、大丈夫ですか、先輩」
アッテンボローがその肩を支える。
「珍しいな、お前さんが酔うなんて」
キャゼルヌがそう言った。
「気持ちの良い夜ですからね」フロルは外を見る。
外は雨だった。
「ようやく卒業できた記念の夜ですから」
フロルは椅子の背にかけていたジャケットを手に取る。
「ジェシカ、俺は疲れたからもう帰るよ。君はもうちょっと飲んでいくといい」
「先輩、でもそれじゃあ」
ラップがフロルの言葉に声を上げたが、ジェシカは黙ってフロルを見つめるだけだった。ヤンがラップの腕を押さえた。
「また、あとで連絡する」
「……ええ、待ってるわ」
彼女は笑おうとしたのに、顔はまるで強ばって動かない。
フロルはそっと、彼女の額にキスを落とす。
いつもより、長めに。
そうしてフロルはみんなを残してバーを出て行った。
持ってきた傘も差さずに。
***
フロル・リシャールという人間の軍歴は、ヤン・
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