第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
007 鍵は情報
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としているのさ。コンサートの件、ついさっき聞いたよ。是非、聴きに行かせてもらおう」
キャゼルヌは的確にヤンを揶揄する。
「ありがとうございます、キャゼルヌ先輩」
ジェシカはヤンにウィンクを送ってから、キャゼルヌに微笑みかけた。ヤンもそのショックに、意識を戻したようで、慌てて手に持っていたグラスを飲み干した。
「自分も是非行きますよ!」
アッテンボローの言葉に、ヤンも大きく頷いた。
「残念だが、俺は働き始めたばかりだから、行けないと思う」
フロルはどこからか椅子を持ってきながら、そう言った。ジェシカは小さく首を横に振る。
「そんなことだろうと思ったわ」
その声に混じる諦観の響きに、そのテーブルの誰もが気がついている。だから、誰も二の次を繋げられなかった。
沈黙に堪えられなかったヤンが救いを求めたのは、バーカウンターの上で点けっぱなしになっている立体TVだった。画面の中では、40代半ばの見てくれの良い男が、調子よく演説をぶっていた。
「そういえばキャゼルヌ先輩」気を紛らわせるためにそれを見ていたヤンだったが、キャゼルヌに話しかけたときには、既にそのことに思考が回転していた。あっという間に思考が切れ変わり、思索は地平線まで届いている。「この政治家、最近よく見ますね」
ヤンの声色の変化にもっとも大きく反応したのは、フロルだった。
それは画面の中の人物が、フロルにとっても注目に値する人物出会ったからである。
良い意味ではない。
最悪な意味での、要注意人物である。
「ああ、最近人気だっていうヨブ・トリューニヒトだな」
「あのいけ好かない奴か」
アッテンボローが下を出しながら顔を顰める。
「俺もあまりああいうのは好きじゃない。なんていうか、外面ばかりいいみたいな張りぼてみたいな印象がする」
ラップもまた苦手なようだった。
「私もあまり好きじゃないわ。見るからにナルシストって感じで」
ジェシカもあの自信に満ちあふれた、言い換えれば自尊心が透けて見える人間を毛嫌いしている。
「おいおい、世間の人気者だってのに、ここにいる連中は揃いも揃って辛辣じゃないか」
キャゼルヌはその反応が面白いようだった。
「恐らく、キャゼルヌ先輩の言う世間っていう大多数には、私たち少数派は含まれていないんでしょう。まだ毒にも薬にもなるか分からない新人議員ですけど、綺麗事ばかり言う政治家が、歴史を建設的に動かしたことなんてないんですよ」
ヤンは画面のトリューニヒトから目を離さず、そう呟く。
「フロルはどうなんだ?」
キャゼルヌに問い掛けられたとき、フロルはヤンの顔を見つめていた。ジェシカだけは小さく嗤っていたことに気付いていた。
「俺の邪魔にならなければ捨て置きますよ」
「じゃあ、邪魔になっ
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