第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
007 鍵は情報
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それぞれの適性にあった部署に居着くことになるだろう。
フロルだけは、決まっているのだが。
「先輩が卒業するだなんて、なんだか信じられませんね」
アッテンボローは退屈な卒業式後の打ち上げで、こう言った。
「なんだ、おまえ、もっと俺と一緒にいたかったのか?」
「私にそんな趣味はありませんよ」アッテンボローは苦笑いをする。
「ですが、美味しい紅茶が飲めなくなるのは残念ですね」
ヤンはビールを傾けながら言った。
「自分で淹れればいいじゃないか」
ラップが笑いながらヤンの腕をどつく。
ヤンは零れそうになるビールジョッキに慌てて口を付けた。
「ヤンには家事の才能が欠落してるからな、茶葉が無駄になるだけだろうよ」
キャゼルヌはつまみのチーズを口に運びながら言う。
「頑張ってみたんですけどね、ヤンの家事能力は絶望的です」
フロルにとって、ヤンの料理に対する適性のなさはもはや絶望という表現でしか思いつかなかった。何度となく、紅茶の淹れ方を指導したのだが、ヤンが入れるとまともなものができなかったのである。ヤンが将来、ユリアンに頼り切りになるのも頷けるというものだった。
フロルの紅茶とて、人よりは多少マシというレベルでしかないのだが、ヤンに比べれば雲泥の差というわけである。
「そういえばフロル、おまえさん、卒業したらどこに任官するんだ?」
「さぁ、後方勤務を希望しておいたんですがね」
「へぇ、それは意外ですね!」
アッテンボローが大げさに驚いてみせたが、軽く目を見開いたヤンにしろ、小さく口笛を吹いたラップにしろ、フロルの所属希望は意外であったらしい。
「先輩のことですから、前線勤務を希望すると思いましたが」
「まぁ、俺も前線には行きたいんだが、下っ端が第一線に行ったところで、上司に恵まれなかったら悲惨な目に遭うからな。多少、偉くなってから行こうかな、と」
フロルは本当のことを話せないもどかしさを、一気に口に含んだビールと一緒に飲み込んだ。
「相変わらずセコいことを考えるが、俺にしてみれば」キャゼルヌは右手を挙げて通りかかった店員を呼ぶ。「おまえさんにはずっと士官学校にいて欲しかったもんだ。そうすれば現場に面倒がやってこないで済む。??あ、ビールをお願いしたい」
店員は他の面子にも追加注文を聞いていった。
2杯目でヤンがアップルジュースを頼み、フロルにいじられたのは余談である。
そして一人18歳に満たないアッテンボローがビールを飲んでいることに、突っ込む野暮もいなかった。
「……そういえば、あの彼女はどうなったんだ、フロル」
後輩達が聞こうとして聞けなかったことを、キャゼルヌが尋ねた。一瞬、フロルの手の動きが止まったが、フロルはそのままビールを口に運んだ。
「……今日の打ち上げ
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