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銀河英雄伝説 異伝、フロル・リシャール
第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
007 鍵は情報
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国で暗殺されたミヒャールゼン提督をアッシュビー元帥と結びつけた人間はいない。見事な洞察力だ、と言っておこう。だが??」
 グリーンヒルはそこまで言って、ソファから立ち上がった。立ってみると、その上背はフロルとほとんど変わらないものであった。だがその体の発する威圧感が、フロルにはひしひしと感じられた。まるで自分よりはるかに大きな人間を見上げているような、そんな錯覚すら感じている。
「??これは公表されて良いようなものではない、それはわかるかね?」
 フロルはそう言われてから、ジークマイスターと同盟の蜜月を認めたこと自体が異例であることに気付いた。そしてグリーンヒルがそれを認めたのも、不注意からではない、ということも。
 グリーンヒルはフロルに、同盟軍の隠された事実に手を伸ばしたフロルに、褒美として真実の欠片を伝えているのだ。フロルはカンニングをしただけ、なのだが。

「はい、もちろんです」
 例え一学生の卒業論文であっても、それが同盟軍の名誉に関わることであるならば、それが公開されるはずはない。しかも内容はあの偉大な英雄の影に纏わる話なのである。
「それで、君はなぜこのレポートを出したのかね?」
 グリーンヒルの問いは、フロルの意図を完璧に理解した上で発せられたものであった。フロルが、その内容でもって何かを取り引きしたいと考えていることを、察している。

「シトレ校長にお願いがあったからです」
 だからフロルは、余計な前置きを省いてそう言った。視線をシトレに向け、そしてそれをまたグリーンヒルに戻す。
「そしてそれはグリーンヒル閣下にも関係することです。ですからグリーンヒル閣下ご自身がお越し下さったことは、私にとって幸運でした」
「何かな、君のお願いというのは」
 グリーンヒルはもう一度ソファに座り直し、紅茶を一口飲んだ。だが視線だけは、フロルを鋭く睨み付けている。
「卒業後の配属先を、閣下の元にお願いしたい」
 シトレは小さく顎を引いた。
 
 情報部戦略作戦局は、大層な響きとは反対に裏方の組織である。華々しい活躍というのは大抵、帝国軍と直に砲撃を撃ち交わす宇宙艦隊が為し得るものであって、情報部の行う諜報活動はそれを補佐するものでしかない。だがフロルは、その補佐がなければ、まともな艦隊戦もできないということを知っていた。
 諜報活動というものが、いかに大切かということを、知っていた。
 ある時、ヤンはフロルに言った。戦争もまた、広義の外交手段である。だが狭義において戦争は外交の失敗を意味している、と。
 そして諜報活動とは、まさに外交のための道具、なくてはならない道具である。
 それを理解していたから、アッシュビーは常勝の英雄となり得たのだ。彼はジークマイスターからもたらされる玉石混淆の情報を天才的な才覚によって利
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