第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
007 鍵は情報
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もらえれば、自分の有用性を相手に印象づけられる。
すべてが上手く行けば、という条件付きであり、危険な賭けというべき暴挙であったが、彼はその大博打に勝ちつつあることを悟っていた。
彼の前には未来の宇宙艦隊司令長官であるシトレと、未来の宇宙艦隊総参謀長のグリーンヒルがいるのである。
「『ブルース・アッシュビーの戦術における帝国内スパイ網について』、私も読ませてもらった。非常に面白い……いや、失礼。興味深い内容だった」
「恐縮であります、グリーンヒル閣下」
フロルは極めて真面目に、そう答えた。
フロル・リシャールは、卒論のテーマにブルース・アッシュビー元帥を扱ったのだ。あの輝ける同盟の英雄の功績が、帝国軍からの亡命軍人マルティン・オットー・フォン・ジークマイスター中将待遇と、帝国軍クリストフ・フォン・ミヒャールゼン中将によって作り上げられたスパイ網によってなされたものだと告発したものだった。これをまともな軍人に見られていれば、フロル・リシャールという軍人の将来は閉ざされていたに違いない。だが、シドニー・シトレは優れた軍人ではあったが、普通ではなかった。
シトレはそのレポートの中に、真実だけが持ちうる微かな匂いを嗅ぎ分けたのだ、とは後世の歴史家の論である。
「君は暗殺されたミヒャールゼン提督の部下であったという、ケーフェンフェラ?大佐に会いに、惑星エコニアの捕虜収容所まで行ったそうじゃないか。随分な行動力だ」
グリーンヒルは鋭い眼光をフロルに浴びせかけた。その怜悧な目線だけで、フロルはこの目の前の人物が、同盟軍きっての頭脳派であることを理解した。そしてこの人物が持っている肩書きの重さをも、理解した。
未来の宇宙艦隊総参謀長の今の役職は、国防委員会情報部戦略作戦局長。
同盟軍全諜報活動の指揮を一手に担っているのは、目の前の紳士なのだ。
「リシャール候補生、このレポートは非常に理路整然としておるし、傍証としての証言も十分だ。だが確固とした証拠に欠けている。それについては認識しておるかね」
シトレはフロルに問い掛けた。
「承知しております」
フロルは一切の動揺を見せず、そう言った。
「だが君はこれを提出した。校長がシトレ中将であったから良いもの、これが君の将来に暗い影を及ぼすとは思わなかったか」
グリーンヒルの質問は、既に詰問に近かった。
「あるいは、そうなったかもしれません。ですが、グリーンヒル閣下がこちらにおいでになっているということは、その中身がそう的外れでもなかった、ということでしょう」
フロルはそこでようやく、いつものように笑った。零れ落ちた笑みであった。
「君の推察通り、同盟軍がジークマイスター提督の情報網を利用していたことは事実だ。だがそれとアッシュビー元帥を結びつけた人間は、ましてや帝
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