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ファルスタッフ
第三幕その三
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第三幕その三

「覚えて下さいましたね」
「しかと。それでは」
「成程」
 しかしその話は今もファルスタッフと対しているクイックリーに聞かれていた。彼女はファルスタッフと話をしながらも二人に気をつけていたのである。
「そういうことだったのね。わかったわ」
「それでだ」
「ええ、ハーンの樫の木の下で」
 にこりと笑ってファルスタッフに答える。
「宜しく御願いしますね」
「うむ」
 彼は追うように頷く。彼はもう得意満面に戻っていた。しかしそこにもまたとんでもない罠があることには一向に気付いていないのであった。
 その真夜中。国立公園の真ん中にそのハーンの樫の木がある。そこに今はフェントンがいる。彼はナンネッタと共に上を見上げていた。木々の間に黄金色の美しい月が見える。その月を見ながら言うのだった。
「喜びの歌は愛しい方の唇から出て夜のしじまを縫って進み同じ様に甘い言葉を返す若い男の唇に」
 甘い声で歌っていた。
「その時その音は一つではなく不思議な響きの中で喜びに振るえ夜が明け染める爽やかな大気に心惹かれつつ新たな別の声と共に戻って来る。そしてその中で僕はまた彼女に厚い口付けをするのだ」
「いい歌ね」
「ナンネッタ、そう思うかい」
「ええ。あら」
「そこにいたのね」
 ここでアリーチェがやって来た。もう妖精の格好をしている。
「フェントン、貴方の服を見つけてきたわ」
「僕のですか」
「そうよ、これよ」
 言いながら一着の服を出してきた。
「これを着て」
「これは」
「修道僧のマントよ」
 にこりと笑って彼に告げる。
「うちの人がまた何か企んでいるからね。それでなのよ」
「これを着るんですか」
「ええ、それでいいわね」
 そのマントを手渡したうえでまたフェントンに問う。
「これで出し抜くのよ。先んずれば人を制すよ」
「成程」
「奥様」
 今度はクイックリーが来た。もう黒い魔女になって箒さえ持っている。
「来ましたわ」
「あら、もうですの」
 アリーチェはクイックリーのその言葉を聞いて声をあげた。
「早いですわね」
「さあ、隠れて。フェントンも」
「はい」
「隠れて着替えてね」
「わかりました」
 彼等が身を隠すとそれと入れ替わりの形でファルスタッフがやって来た。何やら言っている。
「ここだな。その樫の木は」
 まずは樫の木を見た。
「さて、後は」
「ファルスタッフ様」
 ここでアリーチェがそっと声をあげる。
「おお、我が愛しの」
 暗闇の中なので彼女の格好まではわからなかった。
「ようこそ来られました」
「貴方をお待ちしていました」
 まずは殊勝に演技をしてみせる。
「私は貴女の忠実な僕、ジュピターです」
「ジュピター!?」
「そう、雄牛です」
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