第十一話 〜殿〜
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ができなくなっていた。
場はこれ以上に無いくらいに静まり返っていた。
牌豹自身にもそうだが、既に周りにも十分に牌豹の立場を示せただろう。
そろそろ罰を言い渡す頃合いか。
『…なら』
『ん?』
『なら何故…』
だが、牌豹の口からは思わぬ言葉が飛び出した。
『何故貴方は、そんなにも飄々としていられるのですかッ!?』
『…』
辺りが更に凍りついた。
本人の顔色も真っ青だ。
だが、それでも尚真っ直ぐと私の目を見て訴えてくるこの若者。
そんな若者に対して私は素直に呆れていた。
こいつは本当にあの奴宮の下に居たのかと。
信賞必罰は絶対。
それをそこなえば軍紀が緩む。
軍紀が緩めば兵は弱くなる。
それは軍に関わる人間なら誰しもが理解し、そして守り通していくものだ。
当然その軍紀の根源には上下関係というのが存在する。
だが、彼はそんな軍の線引きすら飛び出して私に喰いついてくる。
しかも、既に自身にその罪が降りかかり、また私が周りにも十分に理解できるようにそれを罪だと示した後にだ。
さらに用兵にかけては軍中で秀でていたあの奴宮の副将がこれなのだ。
いったい彼はどうして彼を副将に選んだのか。
私は内心苦笑いをしていた。
だが、もう一つ私には彼に抱く感情があった。
『それはな…』
『奴がお前を残したからだ』
『…え?』
それは彼の肝玉の太さや若さへの素直な称賛と期待だった。
『確かに奴宮の後釜としては些か以上に足りないものは多いようだが、お前が奴宮の仇を取るのだろ?』
そうだ。
今は戦時に突入する重要な時期。
だが、そんな時だからこそ彼の様な若くて勇気のある人間が必要じゃないのか。
今この国の大事を扱う人間は13年前まで前線で戦っていた歴戦の勇将達。
されど13年もの年月によって歳をとった古参老将達ばかりだ。
彼らはいずれ自らの役を誰かに渡さなければいけない。
そんな状況で未来ある若者を失ってもよいのだろうか?
こいつの場合は些か深慮には劣るが、それは私達が導いてやらねばいけない。
それが、国の未来の為なのだ。
『どうなんだ?』
『…え?あっ、えっと』
そして何よりあの奴宮の奴が後事を託していった若者なのだ。
ならば、彼以外に奴宮の代わりは務まらないのだろう。
私は奴宮を信じて彼を使う事にした。
『も、勿論です!必ずや凱雲の首をとってきます!』
『では、戦の中でかならず凱雲の首をとってまいれ。それで今回の失態を無しとしてやる』
『は、はい!』
だが、落とし所はしっかりとせねばならない。
私は牌豹に罪の償いを約束させた。
辺りは今のやり取りで一気に緊張が緩んだのか安堵の空気に包まれた。
だが、本当はここから
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