第十一話 〜殿〜
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豹よ。行くぞ』
『はっ!』
私達は兵士達を掻き分けてその先頭を目指した。
『フンッ!』
ザシュッ
『でりゃぁぁ!』
ドガッ
『ひっ…!』
『どうした!蕃族に腕のある奴はおらんのか!』
最前線では敵味方の乱戦の中馬に跨りながらその巨身に違わぬ薙刀を振り回している凱雲の姿があった。
その刃に触れた物は得物ごと真っ二つに引き裂かれ、一振りで何人もの人間が宙に浮かぶのが見えた。
そして返り血を浴びながら雄叫びをあげ、兵士達を薙ぎ払うその姿は正しく"悪鬼"のようだ。
『…噂では聞いていたがこれ程とは』
そして私はその光景に一人の武人として畏敬とも呼べる感覚を覚え、言葉をもらしてしまっていた。
『え?奴宮様は奴を知っているのですか?』
隣について来ていた牌豹が私の言葉を聞いて聞いてきた。
『あぁ…噂でだがな。お前は奴と戦って負けたのだろう?』
『は、はい…』
『なに、落ち込む必要は無い。彼は別格だ。お前は北の鬼神についての噂は知っておるか?』
『え?確か三人の鬼神が北にはいるとか…』
『彼はその内の一人だ』
『え!?』
牌豹の予想通りの反応に心地良さを覚えた。
そうだとも。
まさかとは思ったが牌豹が彼と対峙していたとは。
だが、生きている事自体が運がよかったのかもしれない。
今目の前で薙刀を振るう彼を"鬼神"と呼んで違和感を覚える人間など何処にもいないだろう。
『…どうりで』
牌豹が隣でボソリと呟いた。
『ふっ…』
『なっ!』
そんな姿に私は笑みが零れてしまった。
普段はあれだけ慢心に慢心を重ねて、上司の私の言葉にすら耳を傾けないあの牌豹が、今素直に目の前の出来事に感心しているのだ。
彼の慢心に日時眉を寄せていた私としてはこれ程に透いた気分になれた時は無い。
隣ではそれに気付いた牌豹が顔をみるみる赤くしているのがわかった。
まったく…。
手が掛かる息子程可愛いいとは良く言ったものだ。
だが、それも最後になるかもしれない。
私は緩んだ口元を引き締めて牌豹を見返した。
『なぁ、牌豹よ』
『…なんですか』
牌豹は私の様子の変化に気付いたのか赤く染めた表情を引き締め直した。
『私はこれから奴に一騎打ちを仕掛ける』
『や、奴にですか…?』
『なんだ?私では役不足とでも言いたいのか?』
『い、いえ!そんなつもりじゃ…』
彼は直様顔を背けた。
武人としては敵の将よりも武で劣っていると言われるのは何より悔しい事だ。
だが、今回ばかりは牌豹の見立ては正しいだろう。
私では彼の足元にも及ばない。
それは奴の今尚続く戦働きや、牌豹を打ち破った実績によってわかる。
牌豹と私の腕の差は
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