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八条学園怪異譚
第三十六話 美術館にその十三
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「それは」
「十二時になればな」
 日下部は言いながら進んでいく、すると。
 その十二時になった、すると今三人の左右にある絵達から次々と人や建物が出て来る。そして色々と話をしたり騒ぎだした。
 出て行かれた絵はそこにいた人やものが白い空白になっている、それを見てだった。
 愛実も聖花もめるで夢を見ている様にこう言ったのだった。
「ううん、これまで色々見てきたけれど」
「ええ、今日は特にね」
「絵からこうして出て来て遊ぶなんて」
「不思議な光景ね」
「描かれた世界もまた世界だ」
 日下部はその二人にまた話した。
「そしてこの美術館にも独特のものがありだ」
「絵から世界が出て来てですか」
「こうして遊ぶんですね」 
 そうなるというのだ、二人も納得した。
 そしてその納得する中でだ。愛実も聖花も見たのだった。
 西欧の、十七世紀初期のイギリスの貴婦人が歩いている、そしてその貴婦人に貫禄のある金色の髭の大男が言い寄っている。
 見れば大男の服はかなり号車だ、二人は大男を見て眉を顰めさせて話した。
「何かあの親父ってねえ」
「凄く嫌な感じよね」
「何よ、って感じよね」
「如何にもスケベそうで」
「ないっていうの?」
「最低よね」
 こう話すのだった。
「着てる服はいいけれど」
「あまりいい人じゃないみたいね」
「ヘンリー八世だ」
 日下部はその髭の大男の名前を言った。
「かつてのイングランドの国王だ」
「あっ、何か凄い女好きの」
「それで人をやたら処刑したっていう」
「そうだ、しかも浪費家だった」
 日下部は二人にこのことも話した。
「そうした人物だった」
「何か強引に結婚した人に不倫の罪を着せて処刑したんですよね」
「最低な人だったって聞いてます」
 二人は女の立場からその顔を思いきり顰めさせて言うのだった。
「その奥さんも何人も替えて」
「注意した人も首を切ったんですよね」
「有名なのだな、この王様は」
「はい、最低ですから」
「一回聞いたら忘れられないです」
 悪名は無名に勝さる、それは歴史においてもなのだ。
「イギリスの王様の中でも最低ですよね」
「こんな人日本にいないと思いますけれど」
「実際ここまでの人間はな」
「いないですよね」
「これといって」
「心当たりがない」
 これが二人への説明だった、だがだった。
「しかしイギリスにはより評判の悪い王様もいる」
「えっ、今ナンパしてるこの王様よりもですか」
「もっと酷い王様がいるんですか」
「あそこにいる」
 右の人差し指で指し示す、そこにいたのは。
 緑の服の狩人とその後ろにいる民衆に責められている者だった、服は時代ががってはいるが豪奢である。頭には王冠がありそれでこの人物の立場がわかる。
 
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