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弱者の足掻き
十三話 「依月」
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手帳に書かれている?
おっさんは俺の手から手帳を取り返して胸元に戻し、改めて俺を見る。

「事態が理解できたかガキ。言っとくがこれの前も後もお前が知ってる物が書いてある。お前が何だとか、何でこんなことを知っているとか、そんな事はどうでもいい。これの内容と、お前が何をしたいのかについていくつか聞かせろ」
「何でこれ……ちゃんと俺……一体、いつ」

 それを書いたものは厳重な注意を持って扱っていた。動く際は基本的に持ち運び、家に置く時は床板の下や屋根板の下に置いて埃に指で跡をつけズレも確認していた。白もいたことだから危険な仕掛けは出来なかったが、それでも動かされた形跡は一度もなかったはず。
 技量不足で術で罠などを仕掛けることは不可能だったが、それでも十分に気をつけていた。
 ありえないはずのそれを出され、俺の精神は一層普通ではなかった。何故? 何時? ただその言葉だけが頭の中を堂々巡りして思考が前に進まない。他にも考えるべきものがあるはずだと理解できても抑えられない。
 
「確かにここに来てからは色々と気ぃ付けてたよお前。だからまぁ、最初だ。お前に会ってすぐ、白に会う前後辺りだな」
「……っ」
 
 本当に最初、「依月」を演じる事から解放され一番気が抜けていた時期だ。全く気が付かなかった。
 今更ながらに自分が嫌になる。今更ながらに「依月」が嫌になる。
 たった一時でさえ、気を抜くことが許されなかったのだ。

 驚きに口を戦慄かせる俺をおっさんは馬鹿にしたように言う。

「おいおい、そう驚くことでもねぇだろ。宿で同じ部屋のガキが夜中に何かやってんだ、目が覚めてもおかしくねぇ。ガキが寝た後に興味本位でそれを見ることもな。ああ、こりゃ何かあると思ったよ」

月の光だけで書き写すのは辛かったなぁおい。そうおっさんが笑う。

「調べたらこの通りのことが起こってやがるしよ。書かれていた白にも実際に会いやがってビビったビビった。お前色々してたよなぁ。ああそうそう、こないだ見つかった野党の死体、あれお前達がやったろ。血の匂いさせやがって」
「……生憎ですがそれは知らな」
「嘘下手だな。というかやっぱお前らか。お前鋭いところあるけど変なところで鈍いよなぁ。何度も試したのに一回も気づかねぇ。馬鹿っていうより線引きしてたんだろうな。こっちも同じだがよ」
「試し……?」

 まだ何かあるのか。気づけなかったことが続々と語られ心が軋んでいく。
 自分が一体どれだけ目をそらしてきたのか。それが当然だと頭から決め付けて、賢しく妥協して逃げてきたのかを突きつけられる。
 単に線を引いていただけなのだ。探られれば困るからと、こっち側に興味を持ってくれるなと線を引いた。そっちに踏み込まないかからこっちにも踏み込むなと、勝手にそう思った
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