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弱者の足掻き
十三話 「依月」
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えどおっさんは――沚島庵は自分の親戚の遺児である俺を見ていた。いざとなれば切ろうと思いながらも目を最低限離さなかった。それは化物と評した中身を持つ子供が何をするのかを知り、切る機会を見計らっていたのもあるだろう。いずれその子供が段々と苦悩に歪み、辛そうにしている姿にも気づいた。

 その子供が何をしたのかを知り、自らの身に及びかねない危険を知った。切る機会が来たのだ。けれど保護者として長い間共にいるうちに庵にはその子供に情が湧いた。ただ見捨てるのも忍びなくなっていた。だから自らの利益とすり合わせつつ、その子供の悩みも消せるだろう行動に移った――そんな、馬鹿な考え。

 この考えが本当かどうかなんて俺にはわからない。
 けれどきっと、次に言われる言葉は俺がずっと言われたかった言葉だって、分かった。
 
「だから、お前がしてきた事は何も間違っちゃいない。お前ごときじゃ何も変わらない。下らない考えやめてやりたいよう好きに生きりゃいいんだよクソガキ」

 ずっと認められたかった。
 ずっと否定されたかった。
 間違っていないのだと糾弾されたかった。考えすぎだと言って貰いたかった。
 だからその言葉が俺は凄く嬉しかったんだ。悪くないって言われて、心が楽になったのがわかった。
 
 堪えてきたものが壊されて今にも泣きそうだったけど、俺は涙を流さなかった。見上げた天井に“それ”を見つけたから。
 それは水だ。コップの半分にも満たないだろうほどの水が俺の頭上真上の天井にくっついていた。まるでどこからか這ってきたように、濡らした跡を残しながら。

 雨漏りでもするかのようにひっそりと、水はそのまま俺に落ちてきた。そして首元に当てられた小刀へと落ち――触れると同時にその刃を覆い凍った。接着していた俺の首の皮膚の一部ごと凍り付く。

「――あ゛、あ゛!?」

 驚きに揺れるように刃が動かされるが喉が切れることはない。簡単な物理講釈だが「切断」というのは加えられた力とそれを伝える接地面積の関係から起こる結果だ。極端な話、接地面積が大きければただの「圧迫」で小さければ「切断」される。
 氷結した水により小刀の刃部分の接地面積は最初に比べ著しく増大していた。これでは切れるはずがない。

 俺の顔を掴むおっさんの手の力が緩んだ瞬間、飛んできた千本が意趣返しのようにその手の甲に突き刺さる。俺の顔から手が離れ、小刀が無理に動かされて喉から剥がれる。
 氷を砕く時間はない。切れぬのならば突き刺せばいいとばかりにおっさんは指で柄を弾いて回し、順手から逆手に持ち替えようと手の中で浮いた瞬間、飛び込んできた白がその手を蹴りぬく。音からして折れたのが分かった。飛ばされた小刀が近くの木の支柱に刺さる。

 動きを制するようにもう片方の手を全力で踏みつ
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