第五十三話 エル・ファシル公爵
[3/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
数に押し潰されてしまう。それに貴方もエル・ファシルの民主共和政を潰そうとはしないはずだ。そうでは有りませんか?」
「……」
頭領って穏やかな表情で怖い事を言うな。ヤン提督が苦手なのってそういう所かもしれない。
「それに比べるとハイネセンは危険です。此処には不満を持つ人間が多い、そして貴方は悲運の名将、悲劇の英雄です。担がれやすいでしょうね」
「悲運の名将、悲劇の英雄? 敗軍の将ですよ、私は」
ヤン提督が苦笑を洩らした。いや、表情が渋いから自嘲かな。それを見て頭領がクスッと笑った。
「ハイネセンでは結構な評判ですよ。貴方は海賊に騙された悲劇の英雄だと。あのロクデナシさえいなければ同盟を守る事が出来たのだと」
他人事みたいな頭領の言葉にミュラー提督が呆れた様な表情を浮かべた。ヤン提督は益々渋い表情をしている。ニコニコしているのは頭領だけだ。
でも頭領の言った事は事実だ。マスコミはヤン提督を悲運の名将、悲劇の英雄と呼んでいる。もっともヤン提督はそれを喜んではいない。そしてマスコミは頭領の事をロクデナシ、ペテン師と呼んで非難している。僕もちょっと狡いと思うけどその事を口に出したことは無い。ヤン提督が不愉快になるのが分かっているから。
それに作戦としては完璧だってヤン提督が言っていた。僕もそう思う。同盟軍が戦場に現れた時点で敗北が決まったなんてちょっと信じられない。それにブリュンヒルトをわざと撃破させたことも。同盟軍は頭領にあしらわれた、全く勝負にならなかった。その事が皆に不満を抱かせているんだと思う。
不思議なのは黒姫の頭領はマスコミの言う様なロクデナシには見えない事だ。ごく普通の若い男性に見えるしどちらかと言えば好青年に見える。穏やかでローエングラム公の持つ覇気の様なものは全然見えない。本当にこの人が戦場で帝国軍を指揮したのかって思ってしまう。
「私は貴方に負けたんです、戦略レベルでも戦術レベルでも。私を悲運の名将とか英雄と呼んでいるのはそれが分からない素人だけですよ」
ちょっと拗ねた様な怒ってる事が分かる口調だった。頭領が苦笑を浮かべた。もしかすると子供っぽいとでも思ったかな。
「そう怒る事は無いでしょう。人間は素直に敗北を認められない生き物なんです。運が悪かったからだと主張するのはおかしくありません。提督の様に負けを認める人間の方が希少ですよ。それに運が無かったのも事実です。あの場にローエングラム公が居ればヤン提督が勝てた可能性は十分にあった」
「……」
ヤン提督が黙っているとまた頭領が“本当にそう思っていますよ”と言った。でも良いのかな、そんなこと言っちゃって。それじゃあヤン提督の方がローエングラム公よりも上だって言ってるように聞こえるけど……。でもミュラー提督も否定しない。良いのかな? 僕は嬉し
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ