第1部 甦る英雄の影
第1章 人狼部隊
鋼の虚構
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たまえ」
「失礼いたします中佐」
淡々と敬礼してアンリは部屋を出る。中から聞こえる言葉は無かったことにして、急ぎ足で食堂に向かう。純粋に、朝食の時間が過ぎて空腹だったからだ。いざ食堂に入ると、正規軍も義遊軍も鉄橋の奪回に成功したことを喜んで大宴会となっていた。騒ぎに乗じてアンリは黙々と食事に勤しむヒルデの隣に座った。ざっくりと切られた黒髪と鋭い眼光の彼女は隊長が隣にいても気にしていないのか、それともきがついていないからなのかひたすらに野桜のサラダとカワライタチのソテーを頬張る。野桜は普通なら食べない雑草だが、目をリラックスさせる効果があり、カワライタチの肉には疲労回復効果がある。狙撃兵の彼女らしい選択だ。
「……ナハト一等兵は正規軍でも狙撃兵だったのか?」
「……正規軍にいたことは、ない……」
ぼそぼそとした小さな声だったが、アンリは危機逃さなかった。正規軍出身でないにも関わらず旧型のボルトアクションライフルでああも小さな的を容易に射貫く腕などあり得ないからだ。しかしそれ以上の回答はなく、質問を許す雰囲気でもない。いたたまれなくなっとところで、アンリの正面にガイウスがどっかりと腰かけた。
「なかなかやるな、隊長さん。ちょいと見直したぜ」
「今回は運の要素で勝ったに過ぎない。それに、ファウゼンまではまだまだ長い……浮き足立つには早い」
「ほぉ。堅実だな。アンタ、前は正規軍にいたんだったけか? 俺は運び屋でよ、クロウの奴とは馴染みなんだが、ヘマしてガリアで捕まった時にアイツと取り引きしてここに来たんだ」
「……正規軍出身は私以外にいるのか?」
「いねぇ。軍人経験者はマルギットのはずだからな」
ランシール出身のマルギット・マウザーを除き全員が民間人からの参加。それはたいがいロクでもない仕事で養った技術をクロウ少将に買われたということだ。運び屋なんてまだマシかもしれない。彼らが逮捕されるのは十中八九で積み荷が原因である。そうなると、ヒルデの過去は何だったのか、想像だに恐ろしい。
「ガイウスさん、もうはなしたんですか?」
「こういう慎重な奴は大丈夫だ。馬鹿をやらかしゃしないのさ」
「お人好しねあなた。グイン、私たちはまだよ。あの子を満足させられない内はね」
「そうだねリジィ姉さん。ならフランのことも?」
「中身は説明しときなさい。それくらいは許してあげる」
妹の権限が強いノーデス兄妹の中ではリジィが上らしい。フランとは、流れから察するに戦車のことではないか、とアンリは推測した。癖っ毛のあるグインと、長く真っ直ぐな髪を全て後ろに長し綺麗な額を晒すリジィはこの隊で二人だけダルクス人だ。ガリア公国ではダルクス人もファミリーネームをつけるのが一般化しているのだ。
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