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万華鏡
第三十五話 厳島神社その十六
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「じゃああの人は」
「本当は凄くいい人なのよ」
 それが素顔のブッチャーだというのだ。
「少年院を慰労に行って励ましに行ったり」
「そういうこともする人なのね」
「確かにリングでは悪役だけれど」
 それでもだというのだ。
「実際はね」
「いい人だったの」
「そうだったの」
「そう、だから私ブッチャーさんが好きなの」
「そういうことなのね」
「そう、まあ神社でプロレスはないわよね」
「いえ、あるわよ」
 景子が笑って里香の横で言って来た。
「昔の話だけれど」
「あったの」
「昔の神社はヤクザ屋さんと関係があったから」
 境内を賭場に貸していたからだ、寺社は寺社奉行の管轄なので普通の奉行は容易に出入り出来ないのでこうした関係が江戸時代に出来たのだ。
「だから昔はね」
「神社でもプロレスがあったの」
「ヤクザ屋さんが興行していれば」
 あったというのだ。
「あくまで昔の話だけれどね」
「今は違うのね」
「今はね」
  ないと、里香の問いにはっきりと答える。
「神社もそういう関係がなくなったのよ。そうそう、もうすぐね」
「もうすぐ?」
「夏祭りね」
「そうよ、楽しみだわ」
 景子は目を細めさせて言う。
「夏はね、本当に」
「景子ちゃんのお家でもあるわよね」
「それに八条神社でも」
「ええ、あるわよ」
 どちらでもだというのだ。
「やるわよ」
「やっぱり神社にとって夏祭りってあれだよな」
「そう、欠かせないものよ」
 こう美優に答える。
「だから神社の前に出店を一杯出してもらってね」
「それでだよな」
「派手にやってもらうのよ」
「景子ちゃんの家の神社も結構大きいしな」
 美優は彼女の家である神社のことも思い出した。
「だからか」
「そうなの。ただ八条神社は別格だから」
 そこは特にだというのだ。
「何しろ日本有数の神社だから」
「そうよね、あそこの夏祭りはね」
 琴乃がその八条神社の夏祭りのことを言った。
「別格よね」
「凄いでしょ」
「ええ、だから今年も行くのが楽しみよ」
 実際に楽しげな顔で言う琴乃だった。
「浴衣も選ばないとね」
「だよな、夏祭りには浴衣だよな」
 美優も琴乃の言葉に笑顔で応える。
「あたしも一着出すか」
「美優ちゃんこれまでの浴衣大丈夫?」
 彩夏は美優を見上げながら彼女に問うた。
「背、去年より高くなってるんじゃ」
「いや、背は変わらないんだよ」
「そうなの」
「一六七のままだよ」
 今の身長と変わらないというのだ。
「だから去年のと同じでいいんだよ」
「そうなのね」
「だからな」
 それでだというのだ。
「一着出して着るさ」
「じゃあ私も」
「私もね」
 彩夏だけでなく里香も言う、そうした話を
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