合格祝い3
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「あー、疲れた」
「全くだ」
事態にやっと収拾がついて、和谷と本田は額の汗を拭い腰をおろした。
「そういや緒方先生と言えば、進藤何かあったのか?」
「え、何で?」
緒方とは最近会っていない。なぜその名前が出るのかヒカルは不思議だった。和谷は淡々と話を進めていく。
「いや、この前いきなり呼び止められて、佐為やお前のことを聞かれたんだ」
「佐為?」
「ああ、佐為のネット碁のユーザーネーム聞かれて、進藤の院生時代はどうだった、とか」
瞬時にヒカルは緒方先生が何か勘付いたのかと疑った。
「それで、他には?」
「進藤の対局で秀策並みに強いと思ったものはないか、とも聞かれたぜ?あと・・・」
「!」
秀策・・・。塔矢との対局のことか?どこで緒方先生それを知って。しかも・・・。ヒカルの頭の中は軽い混乱状態で、何が何やら整理できなかった。和谷はと言えば、「秀策並みなんて緒方先生頭でも打ったのかな」とぼやいている。
「それにお前、いつの間に佐為と秀策巡りに行ったんだよ。俺も誘えよな、全く」
「え、緒方先生が言ってたのか?」
「ああ、先月の終わりに行ったんだろ」
今月の中旬、ヒカルは佐為と会っていた。が、佐為からは「緒方と塔矢と偶然碁会所で遭遇して対局した」、としか聞いていない。聞いてねえよ、佐為!
「誰よ、その佐為って子。進藤の彼女?」
「ばっか!男だよ、男!」
和谷の声もただ残響みたいに耳に入ってくるようだ。ヒカルは胸元を抑え、不安な気持ちに襲われた。緒方先生はsaiをずっと追っていた。俺も病院で胸倉を掴まれて迫られたこともある。
「へえ。和谷も友達なんだ?」
「ああ、ネット碁で知り合ってさ。あと伊角さんも知ってるぜ」
「本当、プロ並みに強い子だよ。初めて会った時はびっくりしたな。それに・・・」
「もしもし?」
「あ、ヒカル?こんばんは」
午後9時。ヒカルは電車をおりて、家路をとぼとぼ歩いていた。辺りは暗く、頼りになるものは街灯と家の灯りに夜空の星と月くらいだった。コオロギの規則的な鳴き声やスズムシの音色が耳に入ってくる。気持ちいい秋の夜のはずなのにヒカルの胸にはしこりがあった。
「この前塔矢と緒方先生に会ったって言ってたよな」
「はい、それがどうかしましたか?」
佐為が不思議そうに口に出すのが目に浮かぶ。佐為にとって意味が分からなくてもこれは伝えておかなければならない。ヒカルは消えるような声で携帯に呟いた。
「あんまり緒方先生には関わるなよ」
「ヒカル、それは・・・」
「そんだけ、じゃあな」
ボタンを押して電話を切った。秋の夜風は妙に涼しく、空気は透き通っていた
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