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シャンヴリルの黒猫
56話「第二次本戦 (3)」
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 モナが絶叫する。カエンヌが冷静な声で説明した。

『本能に身を任せることで体の無意識のリミッターを外す、獣人だけがもつ特有の業“野獣化”は、正に狂戦士(バーサーカー)といえる荒々しさです』

 獣人の戦士は皆近接戦闘の達人だが、中でも狼人(ワーウルフ)は強い。強靭な筋肉はあらゆる武器の威力を底上げし、またそれだけで堅い鎧となって身を守る。それだけならず鼻も利くし、爪も牙も一級品だ。それが野獣化すると、筋肉が限界を超えて稼働し、更なる瞬発力と怪力を生み出すのだ。欠点といえば、本人の意識が朦朧としており、ただ自分以外の全て――味方すらも区別がつかない――を破壊するか、体力が尽きて倒れるまで暴れまわることと、翌日激しい筋肉痛に起き上がれなくなること。ひどい時には死に至ることもある両刃の剣であるが、

「ゥヲヲヲ――――ォォンン――!!!!!」
『…非常に、強力です。ここからは小さなミス1つで結果が分かれることもあるでしょう。集中して挑みたいですね』

 先ほどとは比べ物にならない殺気、威嚇を秘めた遠吠えが会場に響き渡る。砂埃が落ち着くと、中から姿を現したのは、両手両足を地につけた四つ足の獣。

「ガルルルルルル……」

 目はギラギラと光り、あとからあとから零れる涎は、目の前の獲物を餌としか見ていないのを雄弁に語っている。
 姿形は何時もと同じなのに、纏う雰囲気は明らかに“狂気”だった。

『野獣化した獣人は、個人にも寄りますが、およそ現在のランク+1の力とみていいでしょう。現在【狼王】はAランカー。つまり、1ランク上げると理論上Sランカーと同じ力と言えます。あくまで、“力”ですが……』

 意味深に締めくくったカスパーの説明を、だが誰も気にとめない。観客は皆、食い入るように舞台を見つめていた。
 2人は動かない。アシュレイは注意深くロボの一挙手一投足を見逃すまいと見つめ、ロボはアシュレイのどこが美味いか狙いを定めていた。

ゴクリ...

 誰かが唾を嚥下する音が聞こえる。心臓の鼓動すらうるさいと感じる。
 ふっと、アシュレイが吐息した。

「グワアアアアッ!!」

 直後、ロボが宙に躍り出た。さっきまでとは比べ物にならない速さだ。その牙は真っ直ぐに、アシュレイの喉元へ。

「クッ」

 アシュレイの口から声が、声とも呼べない音がでた。余りの速さに避けることもできないのか。これから来るだろう痛みに耐える声なのか。

 ――否。

 アシュレイの唇は、弧を描いていた。

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