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ドン=パスクワーレ
第二幕その八
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 気付けばノリーナが家から連れて来たあのメイドがコーヒーを持って来ていた。マラテスタだけでなくエルネストも立ったまま飲んでいる。そしてパスクワーレにも白いカップが手渡されるのだった。見ればオーストリア製の贅沢な陶器のカップと皿である。
 それを見てパスクワーレは。また言うのだった。
「まさかこのカップも」
「はい」
 メイドはこの屋敷でも無機質な声を出した。
「その通りです。奥様があらためて」
「こんなものまで買ったのか」
 黒いコーヒーが中にあるそのカップを見てこれまた泣きそうな顔になるパスクワーレだった。
「全く。何処までとんでもない女じゃ」
「いえいえ、このカップは見事ではないですか」
 マラテスタはその彼に対して穏やかな笑顔で声をかけた。
「そんなに悲しむことではありませんよ」
「わしは悲しい」
 しかし彼の心は変わらなかった。

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