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ドン=パスクワーレ
第二幕その八
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第二幕その八

「実はのう」
「そうだったのですか」
「そして出会えた。実にいいことじゃ」
「確かに。それでですけれど」
「うむ」
 一呼吸置いてからそのうえでマラテスタに対して述べてきた。
「君の妹のことじゃが」
「ソフロニアのことですか」
「あれは酷過ぎないか?」
 たまりかねた顔で彼に告げた。
「全く。わしは殺されそうじゃ」
「あれは普通では?」
「いや、普通ではない」
 少しばかり落ち着いてきて額を自分のハンカチで拭きながら述べるのだった。
「あんな女ははじめてじゃ」
「歴史的にローマの女は強いものですが」
 それでは定評がある。というよりはイタリアといえば女が強い場所である。この時代は多くの国に分かれていたがそれでも何処でも女は強い場所だったのである。
「ですから普通では?」
「だから普通ではない」
 たまりかねた顔はそのままだった。
「あんな女はな。浪費の限りではないか」
「ふむ。ですが見事な家具が揃いましたな」
 全くの他人事で部屋の中を見回しながらの言葉であった。
「これは。流石我が妹」
「流石も糸瓜も道楽もないわっ」
 パスクワーレは今の彼の言葉にまたしてもたまりかねて言う。
「このままではわしは破産じゃ。どうすればいいのじゃ」
「どうすればとは」
「こんなことではじゃ」  
 そして今度の言葉は。
「エルネスト、おおそこにいたか」
「そこにじゃなくてさっきからいたけれど」
 こう叔父に返す。実はパスクワーレは自分の惨状を訴えることに必死で甥の存在を今の今まで完全に忘れてしまっていたのである。
「叔父さんが部屋に来た時から」
「そうじゃったのか」
「そうだよ。それでどうしたの?」
「御前まだあの若い未亡人と付き合ってるのか?」
「うん」
 まさかあの浪費家の新妻がその未亡人だと答えるわけにもいかず芝居で返すのだった。
「そうだけれど」
「ノリーナとかいったか」 
 彼女の名前を思い出すパスクワーレだった。
「確かのう」
「そうだけれど」
「あれはあまり金持ちではないから」
 何故甥と彼女の結婚を許さなかったのか、理由も自分から言うパスクワーレだった。
「結婚を許さなかったが」
「今はどうなの?」
「後悔しておる」
 苦々しい顔での言葉であった。
「心の奥底からのう」
「けれどもう僕はこの屋敷を出て行くし」
「御前の代わりがあれか」
 あれが誰かはもう言うまでもなかった。
「何たる不幸じゃ、何たる災厄じゃ」
 泣きそうな顔になって嘆くのだった。
「神よ、この老いぼれに何たる禍いを与えるのですか」
「まあ落ち着かれて」 
 マラテスタは立ったままコーヒーを飲んでいた。
「丁度コーヒーが来ましたよ」
「おっ、そうか」

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