第5章 契約
第70話 王の墓所
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ただ漫然とお棺を見つめてばかりも居られない。
そう踏ん切りを付け、完全に開き切った石棺の蓋から、今度は木製の棺の蓋の方に能力を移す。
ただ、どう考えても俺の直観がこの状況を危険な雰囲気だと告げて居ます。ウカツに、この棺の蓋を開けて仕舞うと、何か不測の事態が起きるような気が……。
少し、顧みて湖の乙女の姿を自らの瞳で確認する。当然これは、彼女の立ち位置の確認などでは有りません。
これは、自らの覚悟の確認。
「わたしとあなたならば何も問題はない」
瞳のみで首肯いた後、彼女は確かにそう言った。その言葉に迷いを感じさせる事もなく、その瞳と彼女の容貌を表現する為の重要なパーツには、普段通り俺の姿を映しながら。
この墓所に訪れてから一度もその声を聞かせる事のなかった彼女の声が俺の耳に届いた瞬間に俺の方も微かに瞳のみで首肯き、石棺の蓋を開いた生来の能力……重力を操る能力を再び発動。
今度は木製の軽さ故に、いともあっさりと開いて仕舞う黒の棺。
その瞬間、黒の棺内部より猛烈な勢いで瘴気が溢れ出し、天井に、床に、そして壁。玄室全体を侵して行く。
そうだ。それまでは辛うじて世界が人間の住む、現実世界に繋ぎ留めていた微かな絆が、この黒き棺を開いた瞬間、容易く境界線の向こう側へと世界を移行させていたのだ。
赤い繻子に覆われた棺の内側。其処に永眠する豪華な紅き屍衣に包まれた人物には……。
頭の部分が存在して居なかった。
そうして……。
そうして、その棺の中に横に成って居た人物がゆっくりと起き上がる。
この世にあらざる光に包まれて。
その瞬間にも、更に崩壊して行く現実の理。
「我に何か用か……」
そして、口がないはずの死者が語り掛けて来た。人血に彩られた、向こう側の世界の住人の声で……。
そう。その紅い繻子を濡らすのも、そして、屍衣に紅き色を着けるもの、すべてがたった今、切り取られたばかりのようにどくどくと紅い血を流し続ける傷痕からあふれ出す液体に因る物。
頭部を失った部分から、未だ流れ続ける紅き血流。
「貴様、何者だ?」
首がない魔物……。デュラハンか?
一瞬、有り得ない想像が頭に浮かび、そして直ぐに軽く首を振って否定する。
いや、コイツから発せられている雰囲気は騎士ではない。まして、デュラハンには他人の身体を乗っ取るような属性はない。
「我はガリア王シャルル十三世。頭が高いぞ、下郎が」
棺が音を立てて揺れ、棺からあふれ出す瘴気が天井を伝い、床へとあふれ出した紅い液体がその支配領域を広げて行く。
刹那、棺の縁にヤツ……。オルレアン公シャルルの死体に憑いた存在が手を掛けた瞬間、俺の右手に現れた蒼き光輝
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