第5章 契約
第70話 王の墓所
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室内に侵入した気配。
「おぉ、我が愛しきシャルロットよ。病に倒れたと言うから心配して来てみたのだが、話しに聞いていたよりは元気そうで何より」
その気配の主が、俺の間合いに入る前に立ち止まり、その場でそう寝台の上で上体のみ起こした状態で臣下の礼の形を取るタバサに対して語り掛けた。
尚、床に映る影の形から、彼が仰行な仕草でそう言った事が判りました。
但し、この部屋に入って来たのは彼。おそらく、ガリア王ジョゼフ一世その人のみ。他には御付きの騎士の一人足りとも、この部屋に入って来る事は有りませんでした。
「私如き者の為に過分な言葉を頂きまして、恐悦至極に存じます」
普段は一言しか答えを返そうとしないタバサが、流石に今回に関してはそんな訳にも行かないのか、普通の騎士の受け答えに準じる言葉使いで答えを返す。
……と言うか、彼女のこの王に対する受け答えにより、普段は、面倒な交渉事をすべて俺に押し付けて居る可能性が高くなって来たとは思いますが。
そもそも、彼女の趣味は読書。それも、現在ではハルファスに因り調達して貰った地球世界の書物にまでその範囲を広げている人間。そんな人間の語彙が貧弱な訳は有りませんし、知識が貧弱な訳も有りませんから。
もっとも、どちらにしても今のトコロ俺には関係なし。問題が有るとすると、
「それで、余の姪の命を救い、その他にも色々とガリアの為に働いてくれている英雄と言うのはそなたの事かな」
人の悪い、と表現すべき口調でそう問い掛けて来るジョゼフ王。
もっとも、これは俺の感想で有って、このガリア王が本当にそう思っている可能性も有りますが。
いや、俺がこっちの世界に召喚されてから、解決させられた事件を考えると、英雄と評価されたとしても不思議では有りませんけどね。
但し……。
「陛下に英雄などと評価されると、汗顔の至りで御座います」
最初に頭を垂れた状態から、更に少し余計に頭を下げ、
「初めてお目に掛かれて、恐悦至極に存じます」
そう口上を口にした後に次の言葉を続ける事なく黙る俺。
流石に、英雄などと呼ばれたくないわ、オッサン。では不敬にも程が有りますしね。
それに実際の話、もうおエライさんの相手をするのは面倒なので、これ以上、俺については興味を示されなければ、それに越した事はないのですが……。
まして、俺は所詮、二十一世紀の地球世界の平均的な男子高校生ですから、西洋的封建制度下の騎士と王の会話の基本と言う物は知らないので、流石に、このやり取りだけでも冷や冷や物、なんですけどね。
何故ならば、俺がヘタを打つと、それはすべて自らの主のタバサの恥と成ります。それだけは避けたいですからね、俺としては。
しかし……。
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