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トリスタンとイゾルデ
第二幕その二
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第二幕その二

「貴女様に向けられたものではありません。それ故に」
「それ故に?」
「あの方は貴女様とトリスタン様のことを心から疑っておられます」
「私達のことを」
「小宵の狩が行われるよう速やかに決められたのはメーロト殿の御言葉からです」
「何が言いたいの?」
「事実を」
 その言葉が鋭くなった。
「あの方は何かを考えておられます」
「そこまで考えなくともよいでしょう」
 イゾルデはそのことに対してまで考える余裕を失っていた。
「それよりも合図を」
「合図を?」
「そうです。松明の火を点けなさい」
 こう命じるのだった。
「早く。この胸の不安を歓喜に変える灯りを」
「それは警戒の火ではなく」
「歓喜の火です」
 あらためて言う。
「今こそ。その火を」
「それにより何も起こらないことを祈ります」
 ブランゲーネはイゾルデの言葉には逆らわない。しかしこう呟くのだった。
「私が貴女様に渡してしまったあれは。まさか」
「愛の女神は全てを導く」
 イゾルデは後悔していなかった。
「恐れを知らず世の成り行きを司る神」
「それが愛の女神だというのですか」
「そう。生も死も彼女に仕えている」
 こう言って引かない。
「喜びと苦悩の中から憎しみをも愛に変えてしまう。私はあの時本心を見ようとしなかった」
「そう仰るのですね」
「けれど愛の女神はその私に告げた。本心に従えと」
「ではそれで」
「私は今はそれに従う」
 言葉も隠そうとはしない。
「何があろうとも」
「愛の女神の企みによるあの杯が貴女に迫る危機をも見せないでいることは」
「この胸を燃え立たせ心の炎を煽り魂に明るく微笑みかける」
 イゾルデは森の中を見て呟く。
「愛の女神は夜を招いている。その輝きが彼方で強くなるから」
「この灯りを」
「そう、この灯りを」
 ブランゲーネは今その松明の灯りを見た。
「私は今その灯りを見る。さあ、ブランゲーネ」
「はい」
「行くのよ」
 ブランゲーネに行くように告げた。
「然るべき場所に向かいそして見るのです」
「わかりました。それでは」
 ブランゲーネはその言葉に従い何処かへと姿を消した。彼女はその際に松明を消しそれにより世界は再び闇に覆われた。イゾルデはその闇の中待ち遠しそうに彼を待っていた。だがやがて闇の中に彼が来た。そうしてイゾルデの方に向かうのだった。
「イゾルデ・・・・・・」
「トリスタン・・・・・・」
「そう、私だ」
 彼はイゾルデの方を見つつ答えた。
「今ここに」
「やっと出会えたのね」
 イゾルデはトリスタンをじっと見て言った。
「私が永遠に愛する貴方に」
「そう、私は来た」
 トリスタンはその彼に対して答えた。
「貴女を永遠に愛する為に」

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