本編 第一部
二章 「恋と危険は何故か似ている」
第五話「真剣勝負」
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そこでさっきの仕掛けられた技の応用をやってみせる。俺は真下からいきなりじいさんののど下を押さえつけた。俺の腕の力は並じゃない。相手は浮き上がって膝を決めるどころじゃなくなる。 そしておれの拳は火を吹いた。
烈火のような猛攻が次々とじいさんにヒットしていく。
しかしじいさんから一本を取るには、相手にひざをつかせる必要がある。
いつまにか位置関係は逆転、投げや極め技はたしかに怖い。しかし打撃は一発でもあたれば連続で当てられる。なぜなら相手を確実に弱らせていけるからだ。
すさまじい俺の猛攻にじいさんはいくつかのクリーンヒットを許してしまう、そこでおれは賭けに出たボクシングで一番難しくしかし確実に自分の拳の威力を二倍三倍に挙げる技。クロスカウンターだ。じいさんは俺の猛攻にこちらも打撃で答えるしかなくなった。その一瞬をおれはみのがさなかった。相手の突きをかろうじで避け、その内側から鋭い突きを相手の突きを絡めとるようにすりあげて、顔面へ渾身の一撃を与える。
両者、ぱっと離れると同時に最後の一撃を繰り出す。
渾身の右正拳突き、あっちは必殺であろう貫き手だ。
だがおれは今分かった。なぜ、じいさんがこれほどの危険な技を容赦なくだすのか?
そう、それは相手の殺気に対して、こちらが殺気をもって相手を殺そうとするかみているのだ。
おれは迷った。あのじいさんの貫き手はまちがいなく必殺の一撃。だがそれに殺意をもってこたえるのか?
おれは貫き手をまえにして体の力を抜く。そして貫き手がからだの脇をすり抜けていってから、正拳突きをじいさんの顔の前で寸止めした。
間違いなく、一本をとる形だ。
「やはり、おまえは最後まで殺気に応じようとしなかったか」
「どうしてなんだ?じいさん。おれに殺意を抱くように仕向けたのは」
「賢治というたな、武術とは一言でいえばなんじゃ?」
「おれのボクシングのおやっさんの受け売りでいいなら、人と人とが平和にくらすためのすべだ」
「そうじゃ、力があるからこそ、怯えず、怯えないからこそ脅かされない。上出来じゃ、わしはおまえになにかをみたぞ。おまえなら伊佐をまかせてよいかもしれぬ。だがまだまだ、おまえは弱い!だからわたしが鍛えてやる」
「よろしくお願いします!」
うーん、俺と伊佐の関係が伊佐のじいさんの公認になってしまった。ま、いいおれはもしかしたら、ここでまたあのボクシングジムの時の楽しさを思い出せるかもしれない。
そう、人生を全力で生きたあの時の楽しさ。
そう考えると不思議と顔に笑みがよみがえってくる。
それをみて、伊佐はやっぱりこいつ面白い、と心のなかで思った。
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