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八条学園怪異譚
第三十六話 美術館にその九
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「何でも普段の食事が稗の御飯だったそうね」
「そうみたいね、凄く質実剛健な人で」
「己に厳しく武器を持たない者には決して銃や刀を向けない」
 何故そうしていたか、武士だったからだ。
「降伏した敵将に帯剣を許してね」
「そうした人だったらしいわね」
「そうした方にはなれなかった」
 日下部は今は沈痛な顔で述べた。
「そして身体をなくしてしまった」
「じゃあ今もですね」
 愛実は無念そうな日下部にここでこう言った。
「真の武士になる為に修行されていますね」
「気付いたか」
「はい、日下部さんは今もここにおられますから」
 幽霊になった、しかし魂はここにあるからというのだ。
「そうですよね」
「その通りだ、実は今もだ」 
 修行はしているというのだ。
「己を磨いているつもりだ、しかしだ」
「それでもですか」
「今もですか」
「修行にばかり没頭も出来ない、幽霊もこれで忙しいのだ」
「あれっ、もうお仕事ないのにですか」
「忙しいんですか」
 二人にとってこのことは意外だった、幽霊は最早実体がなく生きている人間の世界にはいない。だから仕事もないのだ。
 しかし日下部が言うには幽霊も忙しいという、その忙しい理由を知りたいのだ。
「何かやることあるんですか?」
「身体がないから寝る必要もないですよね」
「確かに仕事もなければ眠る必要もない」
 それは確かだというのだ。
「そういった実体のあった頃の様なことはな」
「それでも忙しいんですか?」
「お仕事とかがないのに」
「この学園の至る場所を巡検してだ」
 それをしているというのだ。
「私は軍人だったからその役目を担っている」
「あっ、お巡りさんみたいにですか」
「そうされてるんですか」
「そうだ、そして他の幽霊や妖怪達の問題を解決する為に相談を受け動いている」
 そうしたこともしているというのだ。
「だから忙しいのだ」
「つまり憲兵さんですね」
 聖花が言う。
「そうなんですね」
「そうだ、私は経補担当だったが今は憲兵の様なことをしている」
「それで忙しいんですか」
「そうだ、それで忙しい」
 そうだというのだ。
「だから修行もだ」
「専念出来ないのですか」
「しかし修行は私のことだ」
「公はですか」
「仕事だ」
 だからそれを優先させるべきだというのだ。
「それに仕事もまた己を磨くものだ」
「だからいいんですね」
「うむ、しかし真の武士になることは難しい」
 日下部は遠くを見ながら二人に話す。
「修行は続ける」
「ですか、まだですか」
「幽霊になられても」
「そうしている、それで美術館だが」
 話が今夜の本題になった、三人で今から向かう場所だ。
「あそこも広い」
「そうですか」
「広くそして色々
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