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八条学園怪異譚
第三十六話 美術館にその八

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「だからいい。間違っても書道に暴力は無用だ」
「書道でもそんな人います?」
「暴力を振るう人が」
「いるものだ、何処にでもな」
 日下部は奇しくもぬらりひょんと同じことを話した。
「そうした輩はな」
「ううん、そうですか」
「いるんですか」
「そうだ、いるからな」
 だからだとだ、日下部は話していく。
「私は気をつけている」
「書道をやられる時はですか」
「今でも」
「幽霊は飲み食いは出来ないがものは持つことが出来る」
 実際に傍にあった石を拾ってみせる。
「この通りな」
「そうですか、だから筆も持つことが出来るんですね」
「今の石みたいに」
「だから今も時折している」
 こう二人に話す。
「書道はな」
「それで書道の腕前は」
「五段だ」
 愛実のこの問いに答える。
「それだけだ」
「そうですか、五段ですか」
「まだ学びたいところだったがな」
 だがそれでもだというのだ。
「しかし軍務で忙しくな」
「定年されてからは」
「それからも仕事をしていた」
 自衛官を定年で退職してもまだ働いていたというのだ。
「農作業もしていた、そしてだ」
「九十になられてですか」
「それで老衰で」
「そうだ、それが少し心残りだ」
 書道をより精進出来なかったことがだというのだ。
「他にも色々としていたしな」
「だから書道の方はですか」
「どうしても」
「五段で終わりだった」
 五段でも相当なものだがそれで終わったことが心残りだというのだ。
「書道も常に精進してこそだからな」
「何か日下部さんって本当に求道的ですね」 
 聖花は日下部の話をここまで聞いて述べた。
「軍人らしいですね」
「そうだ、軍人は常に己を磨くものだ」
「だからですね」
「文武両道だ」
 彼もまたこう言うのだった。
「武道だけでなく学問もなければな」
「駄目ですか」
「そう思っている。今の自衛官も優秀だが」
「それでもですか」
「やはりかつての陸海軍の先達の方々とは違う」
 日下部の先輩達とはというのだ。
「あの方々はまさに武士だった」
「武士、ですか」
「昔の軍人の人達は」
「そうだった、私は武士にはなれなかった」
 このことは寂しい顔で語る。
「真の武士にな」
「あの、真の武士って何ですか?」
「そういう人って一体」
「陸軍だが乃木大将閣下だな」
 乃木希典、彼こそがだというのだ。
「今村均閣下も立派な方だったが」
「お二人のことは私も聞いています」
 聖花はこの二人の名前を聞いて気付いた様に返した。
「凄い立派な方だったって聞いてます」
「乃木大将は私も聞いたことがあるわ」
 愛実も彼女のことは知っていた、見事な軍人としてだ。
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