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トリスタンとイゾルデ
第一幕その三
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「全て私の撒いた種」
 忌々しさは健在だった。
「全て。私の撒いた種」
「どうしてそこまで」
「思わずにはいられません」
 その黒い瞳は下の、船の甲板を見ている。しかし甲板は見えてはいなかった。
「どうしても」
「そこまで思い詰められていたとは」
 ブランゲーネはそれに気付かなかった己の迂闊さを呪った。
「申し訳ありません」
「謝る必要はありません」
 イゾルデはそれはよいとした。
「ただ」
「ただ?」
「この目は盲目で心は愚かで」
 思い詰めた言葉は変わらなかった。
「そして躊躇い沈黙していた私」
「姫様・・・・・・」
「その私が秘めていたことをあの男は誇らしげに言う」
「トリスタン様が」
「黙って私に助けを求め一言も言わず。私がモロルト様の仇を討つことを諦めたことも意に介さず。そして王にも意気揚々と語ったのでしょう」
「それは考え過ぎでは?」
「考え過ぎではありません」
 イゾルデはそう確信していた。
「私を貶めそのうえでアイルランドからの捧げものにすると。あの破廉恥な男が」
「落ち着いて下さい」
 ブランゲーネはそのイゾルデに告げる。
「お気持ちはわかりますが」
「だから何だというの?」
「ですがトリスタン様も貴方に恩義を感じておられるからこそコーンウォールの冠を貴女に捧げるのではありませんか?」
 こうイゾルデに言うのだった。励ます為に。

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