第三幕その五
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第三幕その五
「私がここに来たのは」
崩れ落ちたトリスタンを抱いたまま呟く。
「貴方と共に行く為」
こう呟くのだった。
「貴方と共に夜の世界に行く為に来たのに。けれどその貴方は」
最早何も語らなくなっていた。
「先に行くとは。それにはまだ早いというのに」
そのまま言葉を続ける。
「貴方と一時目を覚ましている為に私はここに来たというのに。貴方はどうして」
先に行ったのかと問う。
「傷は何処なの。私の妙薬で」
治そうというが返答はない。
「私達が一つになる時に命の火も消える。目もしらみ心臓も止まり息も絶えてしまえばいい」
だがそれでも返答はないままだ。
「貴方の為にここに来たのに先に行ってしまい。私の苦しみも嘆きも昼の世界では聞かないというのね」
そのまま気を失いそこに倒れ伏す。トリスタンの亡骸に重なるようにして。
イゾルデが気を失うとその場が不意に騒がしくなった。牧童がクルヴェナールに叫ぶ。
「クルヴェナール様!」
「わかっている!」
彼は剣を抜き城門の前に現われた。
「敵が来ています!」
「コーンウォールから」
死を決した顔で牧童に応える。
「来ている」
「そしてトリスタン様が」
「・・・・・・・・・」
眠っている主を見て言葉を失ってしまった。
「もう」
「まずイゾルデ様を頼む」
牧童に対して告げた。
「そしてトリスタン様は」
「どうされますか?」
「仰向けにしておいてくれ」
今はイゾルデの下にうつ伏せに眠っている。
「そのお顔が安らかに地についていないようにな」
「わかりました。それでは」
「そして城門を閉じるのだ」
次に告げたのは城のことだった。
「そうして。誰も入られないように」
「はい」
「それが終わればそなたは去れ」
「えっ!?」
「聞こえなかったのか?去れというのだ」
また牧童に告げる。
「わかったな。去れ」
「けれどそれは」
「いいのだ。わしはここで死ぬ」
彼は既に意を決していた。それはもう目にも出ている。
「だからだ」
「クルヴェナール様・・・・・・」
「さらばだ」
彼はもう牧童に顔を向けなかった。
「これで」
「・・・・・・わかりました」
牧童は城門にかんぬきを下ろすとそれを最後に何処かに姿を消した。だが今度はそこにブランゲーネがやって来た。
「イゾルデ様、こちらに」
「貴女は下がっているのだ」
クルヴェナールは正面を見たままだった。
「いいな。これは私の仕事だ」
「貴方もまた」
「ここで戦うのみ」
右手の剣が煌く。
「だから」
「・・・・・・・・・」
「来たか」
ブランゲーネは気を失っているイゾルデを助け起こしたまま俯いてしまった。クルヴェナールの前には騎
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