101号室篇
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101号室
長い間、病気をしておりました。田舎育ちの私は、山奥の病院で静かな毎日を生き続けるとともに
「それで本望よ」
と自らに言い聞かせてきたのです。
「楽しくない人生ほど永く続く物なの」
重い病気ほど死を迎えるのは遅い物です。まだ、やり残したことがあるんじゃない?…と言わんばかりに。
「今朝は顔色がイイな」
うるさいなぁ、黙っててよ
「はいはい、わかったわかった」
返事は一回よ
「ベットから起こすぞ」
ベットから起き上がり、彼のほうを見る。
何をしているの?
「これから、溜まってる洗濯物を洗ってくるからな…」
いつも、ありがとう
「感謝しろよ」
彼はいつもどうりニヤッと笑った。
「じゃ、ちょっとしたら戻ってくるからな」
うん、待ってる
「少し、暑いな」
彼は洗濯物のあるベランダへ目をやった。
風が無いね
「扇風機を借りてきてやるよ」
いつも、ありがとう
「俺じゃ、病気は治せないから」
彼は私に背を向け、うつむいた。
「明日はお前の誕生日だな…盛大に祝ってやる、昔の仲間を集めて、あと、ケーキ買って、歳の数だけロウソク立ててやるよ、お前今いくつだっけ?」
女の子に歳を聞くなんて、ホント、常識が足りないんだから、でも、誕生日…楽しみにしてるよ
「よし、そうと決まれば、色んな所に電話を掛けてくっから待ってろよ、それとケーキもな」
少しすると、彼が戻ってきた。
「ちっ」
どうしたの?
「なんで、誰も来てくれねーんだよ…くそっ」
彼が怒りを隠すことはなかった。
それでも彼はすぐに落ち着きを取り戻し、私に笑いかけてくれた、とても疲れた顔で笑った。
「あぁ、悪い…少し、取り乱しちまった、また…明日な」
うん、また…明日…
「お休み」
なぜか、いつもより眠気が酷かった。
お…や…すみ
彼女は長い間、病気だった…あの誕生日、あの日までは。
彼女が病気になってからは、なんの狂いもなく単純な毎日が続いていた。
朝起きて、洗濯をやって…いや、その前に彼女を起こさないと、ベットに座らせて、それで…それで……
僕は…僕は笑いかけてやる事しか…出来なかった
「どうして…どうして!!!!」
まだ、伝えてない事がたくさんあった、なのに…
うわあああああああああああ!!
不思議と、涙は出なかった。
きっと、既に枯れていたのだと思う。サナトリウムはいつもより静かになった。
101号室の愛し合う二人。
植物人間の彼女と、一人ぼっちの彼の独り言…
…ねぇ
「俺は…俺は…」
ねぇったら!!
「なん…!?」
いつも…ありがとう
「えっ…」
バイバイ
〜101号室 完〜
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