暁 〜小説投稿サイト〜
とあるβテスター、奮闘する
裏通りの鍛冶師
とあるβテスター、手を握る
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世の中には予想外の不幸もあれば、予想外の幸運もある。
そんなごく当たり前のことをこれほどありがたいと思ったのは、生まれて初めてかもしれない。
これが普通のゲームだったなら、たかがゲームで大袈裟だと自分でも思っただろう。
だけど、そのゲームに自分の自分の命が懸かっているとなれば話は別だ。

僕は日本人にありがちな無神論者で、神様やら仏様といった存在は基本的に信じていない。
だけど、今日ばかりは。
今日この時、このタイミングで彼らのパーティが通りかかったことに対してだけは、いるのかどうかもわからない神様に感謝したい気分だ。

「俺、生きてるよな?生きてるよな、なぁ!?」
「うんうん、りっちゃんは生きてるよー」
広間から無事に生還し、もはや涙目なのを隠そうともしないリリアと、相槌を打ちながら頭を撫でるシェイリ。
そんな二人の様子を眺めながら、窮地を凌いだことに安堵の胸を撫で下ろした。

実際のところ、結構危ない橋を渡ったと思う。
あのタイミングで彼らが通りかからなければ、シェイリかリリア、どちらかの武器耐久度は限界を迎えていたことだろう。
僕は事実上戦力外だったし、予備の武器だけであの大群を相手にすることができるとは思えなかった。
平時はほぼ無人のこのダンジョンで増援に恵まれたこと自体、かなりの幸運だったと言える。

「危ないところをありがとう。えっと……クラインさん、で合ってた?」
「おうよ。でもって後ろの連中は全員、オレのギルド『風林火山』のメンバーだ」
「それじゃ、改めてありがとう、クラインさん。お陰で助かりました」
「気にすんなって。間に合ってよかったぜ」
加勢してくれたことにお礼を言うと、パーティリーダーの男性プレイヤーは何でもない事のように笑った。

風林火山。確か、最近になってフロアボス攻略に加わったギルドだ。
ギルドマスターのクライン───ツンツンと逆立った赤毛に悪趣味なバンダナを装備した曲刀使いの姿は、僕もボス攻略の際に何度か見かけていた。
金壺眼に長い鷲鼻、むさ苦しい無精髭。加えて日本の戦国時代に使用されていた武士鎧のような装備を身に纏った姿は、その顔立ちも相まって野武士か山賊のような印象を受ける。
パーティメンバーは彼も含めて全員が20代前半から半ばといったところで、恐らくは社会人のみで構成されているギルドなのだろうと思う。

「おめぇさんはアレだろ?ボス攻略の時にいたよな?」
「……えっと、はい」
「やっぱそうかあ!いやぁ、そのフードで顔隠した姿、どっかで見たことあると思ったんだよな。オレの記憶に間違いはなかったってわけだ!」

───どうしたものかな……。

気さくに話しかけてくるクラインに、僕は迷ってしまう。
ここで彼と親しくして、いいのかどうか。

ボス攻略
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